ヨットからのぞく環境と社会-あなたはどんな風を掴まえる?-

ヨットに乗ったら、海の中や大気や、「暮らし」まで見えてきた。

2020.05.22 松岡 美範

松岡 美範

こんにちは、海が大好き美範です。

今日は、「風を操る帆の旅」をテーマに、ヨットの旅で知ったこと、そこで出会った船長さんの話を元に特に印象に残った話を記事にしてみた。海や風を愛する人、冒険家、そしてエコショップ(プラスチックフリーのお店。最後に紹介!)に興味のある人は是非読んで!


冷たい北風が吹き付けて、船体が揺れている。水面には太陽が照りつけて、キラキラと輝く。

「さあて、進行方向は?どのロープを緩める?」船長は忙しく指示を出しながら、クルーの頭も一緒に回転させている。舵を切りながら帆の張りを確認する彼らの目は鋭く、僅かな風の強弱や、帆の角度を読み取っている。

ギリ…ギリ…ギリ…という音と共に、巻かれていた帆が完璧なタイミングで広げられていく。そして完全に帆が広げ切られ、風を目いっぱい受けた時、「よし!」という船長の声に皆が安堵する。


11月のある日、ヨットの乗船を体験できると聞いて、参加を申し込んだ。 船長さんは、サンゴなどの環境セミナーを開催している人、と聞いていた。船長さんの名前は、武本匡弘(たけもと まさひろ)さん。

どんな人かなあと思って調べてみたら、色々な所属を持っている人のようだった。
「サンゴ礁学会会員」
「第五福竜丸平和協会協力会員」
「プロダイバー」
「エコストア パパラギ」

水中写真家のように思える写真もウェブサイトにあった。色々なバックグラウンドがありそうだけど、一体どんな人なんだろう?

●朝日に照らされるVELVET MOON号

ヨット乗船、当日の朝。
朝日を背景にした「VELVET MOON」号は、 海に反射した光で、船体も、ロープも、帆もきらきらと輝いていた。

日本一忙しい東京湾だけあって、貨物船、クルーザー、軍艦船、小さなヨットたちが往来している。他の船にぶつかったりしないように、ある程度沖に出るまではエンジンで走る。しばらくすると、武本さんがここからは風を操って海を走るよ。」と言う。なんてワクワクする言葉だろう!

お尻の下の機械的な振動が止んで、今度は波の揺れを感じる。風は冷たいけれど、久しぶりの海の上は最高に心地よかった。

ゆっくりと海風を感じている間にも、船長の指示が飛ぶ。 クルーの邪魔にならないようにシートに座ってその様子を見守る。

ひと段落したところで、VELVET MOON号のことや、武本さんの冒険について聞いてみた。

みのり:武本さんのことインターネットで見てみたら、色んな肩書がありました。一体なにをメインにされているんですか!?(やっと聞けた)

たけ:サンゴ礁学会会員、日本ダイビング協会、第五福竜丸平和協会協力会員、日本自然保護協会の指導員…全部どれも関わっているものだけれど、僕はダイバーになって40年になるよ。そして名刺やウェブサイトに、こうした色々な肩書を書くことで、例えば「サンゴ礁学会ってなんですか?」という話題を生み出すことも狙いだったりするんだ(にやり)

みのり:(狙い通りまんまとかかってしまった…)確かに、聞かれた質問から会話が広がりそう。

たけ:そうだね。誰だって突然、「今、サンゴが大変なんです。」なんて話しかけちゃったら、相手はドン引きー、だもんね(笑)

みのり:(なんだかスパイラルメンバーの考えと似てる…)

さっきまできびきびと指示を出していた船長は、今はいたずらっこの笑みを浮かべている。

●VELVET MOON号との出会い(ヨットの中の紹介)

南アフリカの知り合いから買ったもので、元々は海のなく標高の高い首都、ヨハネスバーグで作られたものだそう。首都から海におろされ、前の持ち主と共に航海難所と言われる喜望峰を回り、カリブ海へ。そして持ち主の都合で日本にくることになったこの船は、武本さんと出会うことになる。武本さんはVELVET MOON号と伴に、太平洋航海でマイクロネシア諸島等をめぐる旅に出たこともある。今では地球を2周半(!?)もの距離を走っている計算になるのだとか!

はしごでキャビンへ降りると、白色がメインだった甲板から変わって、つやっとした濃いめの茶色が目立つ。リビングのような座れるスペースと、書斎のようなスペースがある。壁中には読み方の分からない、地図らしきものが沢山張られていた。聞いてみると、毎月の風の吹き方や潮の流れを記したものらしい。電気系統も整備されていて、お湯やトイレ、シャワーも使うことが出来る。

人一人が通れる通路を進むと、三畳ほどのキッチン、船長やクルーの寝室がある。納屋のように様々な便利道具が隠されている部屋も、元々はトイレやシャワールームだったとか。そこを武本さんがより使いやすいようにリノベーションして、部屋として利用している。長距離の航海では、充分な食料や水が必要になるため、どんなスペースも有効に使えるように工夫することが必要となる。

みのり:もし海が荒れたりしたらどうするんですか?

たけ:航海するなら、どんな状況でも一人で乗り切る心持ちがないと、ヨットには乗れない。優秀なヨットの操縦者は、マストが折れても、あるもので立て直したという話があるくらいさ。

この日は2人のクルーを含め、5人が乗船していた。帆の上げ下げや舵取りだけでも多くの作業が求められるのに、きっと一人でもやってのけてしまうのだろうなと思った。

●プロダイバーとしての人生

ダイビングを初めて40年、プロダイバーとしては36年もの経験を持つ武本さん。

たけ:ダイビングを初めて20年ぐらいは、それはそれは美しい海を楽しんだ…。だけどそれ以降、段々と元気がなくなってきた。そして今の海と昔の海では、比べ物にならないものに変化しているよ。

みのり:それって、どのような変化ですか?

たけ:ほとんどが悪い方向に変化している。開発による汚染、住処を奪われる生き物たち、気候変動…全てがつながっているけどね。

気候変動による変化を自分の目で見ようと、武本さんは太平洋航海を始めた。

5月に八丈島を出発してからというもの、2か月間のうち水温が32度を下回ることはなかったという。これは海が壊れていくのも無理ない、と思っていたところ、また別の悲しい光景を目にすることになる。

撮影  武本匡弘

●太平洋の真ん中でみたもの

たけ:あれはちょうど、そういう海流の近くを通ったからだと思うけれど、海に浮かんでいたものは、ゴミ、ゴミ、ゴミ。海のごみ問題は認知していたけれど、太平洋のあんな真ん中でものすごい量のゴミを見て、言葉が出なかった。海水をとって調べると、必ずと言っていいほどプラスチックは確認できたよ。

ゴミは燃やされたり、埋め立てられたりするから、私たちが捨てた後はまるでゴミが完全に消えたかのように思ってしまう。人間が海に放ってしまったゴミは消えることなく、誰にも知られない太平洋のど真ん中で 太陽に照らされ、波にもまれながら、沈んだり細かく砕けるのを待っている…

海にポツンと漂うペットボトル。 
撮影  武本匡弘

たけ:海水を少し濾しただけでもすぐにゴミが見つかるのだから、もう海はゴミだらけなんだ、本当に。これだけ不純物があるから、海に出た水や汚染水が「希釈される」という考えはとても古いように感じるね。

太平洋に浮かぶ島国、パラオに流れ着いたゴミ。
撮影  武本匡弘

更に武本さんはマーシャル諸島のある島で、核実験の被害者達と出会うことになる。 その島の名前は、「ロンゲラップ島」。
アメリカが1954年にビキニ環礁で行った、核実験。その規模は広島に落とされた原子爆弾の、およそ1000個分にも昇る。

たけ:環礁に落とされた爆弾で、海中のサンゴだって吹っ飛んでしまった。その衝撃は、砕けたサンゴを空中に巻き上げるほどの威力だったんだ。その他の生き物だってひとたまりもなかったはずさ。落ちてくるサンゴの欠片は凶器として島に降り注ぐ。爆弾投下後の死の灰をみて、島の子供たちは「雪が降っている!」と喜び、身体に塗りつけてみたり、口に入れたりしたそうだ。今も奇形児が生まれたり、こうした核実験による被害が消えることはない。

航海の途中で、海が弱っていき、そして核実験により苦しむ人々に出会い、今の社会には変化が必要だとますます考えるようになった武本さん。そんな社会に変化を生むべく、自分なりの社会への関わり方を模索し、実行している。

●「知ることが希望」「生活者が社会を変える」

たけ:僕が航海で目にしたこと等を、セミナーとして話すようになった時に、ある主婦の会から講演依頼をもらったんだ。主婦の方たちにはどんなお話をしようかなあと考えながら訪ねに行ったんだけれど、依頼をくれたのは既に自分たちの暮らしが海や自然環境つながっていると感じてくれた人たちだった。そして、日ごろ使う洗剤やスポンジが、海の生き物を苦しめていることにとても責任を感じていた。この責任感から、「じゃあどうすればいいか考えよう!」というエネルギーがすごくて、このエネルギーこそが社会を変えるんだろうと感じたよ。とても勇気づけられた出会いだった。

こうしたことをきっかけに、シュノーケリングの世界に人々を連れ出したり、自然を学び、大切さを伝えるNPO(OWS: The Oceanic Wildlife Society)を設立している武本さん。社会を作っているのは生活者であり、「誰もが環境活動家になれる」という信念の元に、沢山の人と環境について目を向ける活動を行っている。 武本さんはこの乗船会で海を好きになって、楽しい!わくわくする!といった切り口から、海の様々な面について知りたいと思う人を増やしたいとも語ってくれた。

●横須賀の石炭火力発電所をみて

おしゃべりと熱いスパイスティーを楽しんでいると、灯台のようなものが見えてきた。横須賀市久里浜で、今まさに建設中の石炭火力発電所だ。

たけ:日本で稼働している石炭発電所が97基。これだけでもすごい数だけれど、建設中や建設予定が26基もあって。時代の流れに逆行してCO2を生み出そうとしているのは日本だけだよ。

実際に日本のメガバンクは、石炭火力発電所への融資で世界的にも突出している

私たちの使う電気は、どんな発電所で作られているのか?そして使っている銀行は何に投資しているのか。武本さんは町中に石炭火力発電所が建てば、空気が悪くなって健康問題も起きるだろうと教えてくれた。発電所と聞くと、どこか遠くのものに感じてしまうけれど、家の窓の外をのぞいて、ようやく煙の影響の大きさに気づくのでは何もかも遅すぎる。

そろそろ港に向かって帰ろう、という時に武本さんがプランクトン採取用の網を船尾から投げ入れた。網で濾されたプランクトンなどは、下についているガラスの小瓶へと入っていく。小瓶の中身はシャーレの中に開けられて、顕微鏡で拡大した様子がパソコンに映し出される。

プラスチックの欠片や繊維が混ざっている海水

マイクロプラスチックが取れない日はないという。

みのり:どれがプランクトンか良く分からないなあ…

たけ:そうだね、今回はあまりプランクトンは入っていないみたいだ。2050年に海のプラスチックの量が、魚の量を上回るというけれど、もうとっくにこの汚染は大変なことになってる。この黒いのはなにか分かる?炭素ゴミだよ。

みのり:炭素ゴミってなに?

たけ:文字通りゴミで、触るとぬめっとしてる。船からのゴミや塗装がはがれたりしてこうしたゴミになる。さっきの石炭火力発電所が建てば、こうしたゴミは急速に増えるよ、ススなんかが大量に出て。汚染水だって流れでて、ここの海はもっと汚くなってしまうんだ。

黒く見えるのは全て炭素ゴミ。

太平洋のど真ん中で、人々に忘れられたかのように浮かぶ数々のゴミ。

次第に元気をなくしていく海の生き物たち。

原子爆弾の投下により苦しむ、ロンゲラップ島の人々。

今まさに建設されている横須賀の石炭火力発電所。

ヨットに揺られながら色々な光景に頭を巡らせた。起きている問題が違っても、全ては私達が住む地球で起きていること…海で覆われた地球で、これらの問題は繋がっていないとはいえないでしょう?

「知ることが希望」と言った武本さん。私たちは知ったあとに何ができるができるだろう?それをみんなで話す場所があったらいいよね🤔(この後のエコストアパパラギをチェック!!)
自分が使う電力などのエネルギーは、どんな方法で作っているところにお金を払うか選択しよう。(環境に配慮した電力会社って?銀行って?そう思った人はリリアンの動画、「生活の見直し編」をチェック。 電力会社を変えたい!比較したい!って人はここからチェック。

自分たちと社会、そして自然とつながり方の責任を、友達や家族と話す時間を持とう。


久しぶりに海に出てうきうきしたVELVET MOONの乗船会。
ヨットで風を浴びながら、目に付くものから環境トークが始まったり、
太平洋航海に想像を巡らせながら、少しだけ舵を握らせてもらったり。(!)

色々な話をしたけれど、「自然資源や自然環境、そして私たちを取り巻く社会、組織やコミュニティの持続可能性」がキーワードになっていた。

頭も心も刺激一杯の帆の旅。

私はどんな風を掴まえることができるだろう。

ヨットで航海にでてみたくなったあなたは、こちらをチェック!!

きっと新しい発見と出会いに満ちた航海になる。


●エコストア「パパラギ」

日常生活に潜む、地球をまもるチャンスをもっとみんなで活かせるようにしたい!という思いから、藤沢駅周辺で「エコストア パパラギ」をオープンした武本さん。ステンレスストローや消しゴム、そして量り売りの無農薬食品や洗剤に至るまで様々な商品を取り扱っている。もちろん、すべての商品が「環境にやさしい商品」。種類も沢山あって、環境にやさしくて…って、わくわくする買い物ができるよ!

お店では環境セミナーが開かれて、小学生も大人も混ざって、自由に意見を交換する。最後に「しゅくだい」が出て、次回までに自分の意見を整理してくるのだそう。私が参加してみた時は、小学3年生の女の子が、自分のお小遣いでプラスチックフリー消しゴムを買っているのが印象に残ったよ。他にも自分の庭で蜂を育てている人や、環境教育に関わる人…様々な年代が集うパパラギには、地球を愛する人が集まってきている!セミナーにも申し込みで簡単に参加できるよ

マイバッグやマイ瓶をもって買い物に行こう!

ひとつひとつの買い物に、人との出会いにもわくわくできる「パパラギ」に。

松岡 美範

松岡 美範

国内外でウミガメ、サンゴ礁、イルカなどの海洋保全活動に参加。夢は鯨類と泳ぎ、オサガメと出会うこと。今後学びたい事は、クジラのソングやヒートコーラル、海に関する神話と、科学の親和性。知識・感情共に豊かな海洋ジャーナリストを目指す。もっと詳しく

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