沈むゆく楽園ツバルの現状に感じた、海面上昇のリアル

30年後、あなたの故郷が沈むとしたらどうする?

2019.01.31 田村 聡

田村 聡

「沈みゆく楽園」と呼ばれる島国があるのをご存知でしょうか?

南太平洋の赤道直下に位置する島国ツバルは、気候変動による海面上昇の影響で数十年後には沈んでしまうと言われています。

この記事には、私がツバルに行って体感してきたこと、ツバルの人々が実感している被害、そして科学的な根拠に基づいた情報をまとめました。

日本にいるとなかなか想像しづらいですが、海面上昇の被害は実際に起きていて、近い将来故郷を離れなければいけない人々がいます。

まずはそれを知ること、そこから始めていただけたら幸いです。

※なんで私がツバルに行ったのか、何をしに行ってきたのか、詳しくはこちらのwebsiteにまとめてありますので、お時間がある時などにご覧ください。「ツバル〜沈みゆく旅行記〜」ツバルの今の潮位と連動するような仕掛けとなっているwebsiteです。はっきり言って読みにくいのですが(笑)、裏技を使うと募金しなくても全部読めるようになります(裏技は記事の途中に記載)。


<目次>

<ツバルってどんな国?:三日月形のカラフルな島>

ツバルは南太平洋の赤道直下、オセアニア地域にある島国です。人種区分はニュージーランドの先住民マオリ族と同じポリネシア系で、温厚で人なつこい性格の人が多く、いかにも南国な雰囲気の国でした。

ツバルの人口は約11,000人と世界で2番目に少ないです。国土の広さは世界で4番目に小さく、9つの珊瑚礁でできた島で構成されていて、首都のあるフォンガファレ島は三日月型なんですが、端から端までは原付バイクで30分あれば往復できる小ささです。

↑ツバル人の趣味の一つ、ラウニ。島の端から端までドライブするだけなのですが、これが毎日の一番の楽しみだという人にたくさん出会いました。ちょっと退屈そうなので、自分はツバルに住み付くことはなさそうです。
↑島の60%くらいを占める滑走路でたむろっている若者たちとラサロ(左のおっさん)。ツバルの滑走路では、夕方になると人々がサッカーやラグビーなどのスポーツも楽しんでいます。
↑出身の島対抗で行われる魚取り合戦。負けたチームは年齢や性別に関係なく顔に墨を塗られる。

<ツバルの海面上昇の現状:年々悪化するキングタイドの脅威>

こちらの写真をご覧になったことはありますか?

これは水没した発電所の前で子どもたちが立っている写真です。自分はこれを中学の社会の授業で見て、衝撃を覚えた記憶があります。「へー、世界には海に沈んでいく島があるんだ」と。その時には、まさか自分がツバルに行くことになるとは思ってもみなかったんですけど、、、。

実際に行ってみると写真で見る以上に衝撃的で、人々の日常に密接した問題で、「へー」なんて他人事のようには思えなくなります。

とはいえ、ここで勘違いはしないでほしいのですが、ツバルがこの写真のように常に水没した状況にある、というわけではありません

平常時には海水はなくて、1年の中で最も潮の高くなる1〜3月の「キングタイド」と呼ばれる満潮時に、珊瑚礁でできたスカスカの地盤の穴から海水が滲み出てきて、浸水するのです。

ツバルの首都フナフティがあるフォンガファレ島の平均標高は1.5m、最も高い地点で4mしかありません。なので、キングタイド時には島のいたるところで浸水が起きており、上の写真にあるような発電所や集会所の前、そして全体が浸水してしまう集落などもあります。

↑浸水が深刻な集落の1つカバトエトエ。子ども達は出来上がった自然のプールで遊ぶ。

キングタイドの被害は年々深刻化していて、昔は浸水しても足首辺りだったらしいのですが、近年は膝の高さまできます。

特に2018年のキングタイドは平年に比べて潮位が高く、普段は浸水しないような小道でも浸水が観測されていて、カバトエトエという集落を訪れた時に、20年間ツバルで活動をしているNPO Tuvalu Overview代表理事の遠藤氏が「こんなひどい浸水は見たことがない」と言うほどでした。

自分としては、ゴミ箱が倒れていたり、トイレの排出物まで海水で覆われていて、衛生面とかマジでやばいなーと思いつつも、この自然のプールの中で当たり前のように遊ぶ子供達を見て、「ああ、ツバルでは海面上昇は既に日常の中にあるんだな」と危機感を感じました。

<ツバルで身近に感じた海面上昇の被害:塩気の効いた井戸水に、失われたタロイモ>

海面上昇は、島が沈んだり、住む場所がなくなったり、生態系が壊れたりと大きなスケールの影響を思い浮かべてしまうことが多いかとおもいますが、実際には生活に密着した身近な被害も起きています。

例えば、ツバルの人々は地下水をくみ上げて飲料水として使用していました。しかし、30年ほど前から井戸水が、海水の浸食による塩害を受けて飲めなくなってしまったそうです。今はもう地下水は豚小屋の掃除やトイレを流す水としか使えなくなってしまいました。

↑今は使われることのなくなってしまった井戸(引用:NPO法人ツバルオーバービュー)

また、ツバルの伝統的な主食はタロイモと呼ばれる芋で、昔は多くの畑で育てられていたそうですが、ここ20年ほどで首都ではタロイモは育たなくなってきたといいます。

というのも、海面上昇によって海水が畑に入ったり土壌が塩性化してしまい、タロイモが枯れてしまっているのです。

↑タロイモが塩害で育たなくなってしまった(引用:「ツバル人環境活動家ティロウさんをCOP20に参加させたい」)

これらの被害に加えて、ツバルではビーチがなくなってきているという話も聞きました。それも、まだ20才そこそこの若者からの話で、彼女が子供の頃から比べてビーチの大きさが小さくなったのだそうです。

下の写真は1977年のキオア*の海岸なのですが、40年前は広くあったビーチも現在は削られて、奥にある水色の家に住む人はいなくなり、廃墟のようになっています。ツバルでも同じような状況なのです。

↑*キオアについて詳しくはこちらの記事をご覧になってください「沈みゆく国ツバルに残された選択肢

<ツバルが海面上昇の影響を大きく受ける理由:海面上昇はフェアじゃない>

まず根本的な話なのですが、海面上昇って地球上のどの緯度でも同じくらいの程度で起きていると思いますか?コップの中の水も、お風呂のお湯も横から見たら水面は平らだから、海面は全部同じ高さのような気がしますよね。

でも、実は緯度によって海面が上昇している高さって違うんです。

↑1955〜2003年に会水面が1年に何mm上昇したかの図(IPCC AR4 WG1 p.412の図を抜粋)

上の図は、1955~2003年に海水面が1年に何mm上昇したかを表しています。インド洋付近の海面で最も上昇しているので濃い赤色で示されていて、高緯度に比べて低緯度の海面の方が暖色である(海面が上昇している)傾向にあります。

ツバルはというと、赤道直下の濃いめのオレンジと赤色の海面上昇が顕著なエリアに位置していて、年に約2.4mmだから48年間で115.2mm上昇しています。

「たった11cmか、海面上昇なんて大したことないじゃん。」と思う人もいるかもしれませんが、この数字は潮の高い時も低い時も平均して年間で見たもの。潮の高い時だけを切り取ってみたら11cmどころではなく、もっと上昇しているのです。

さらに、海面上昇のスピードは年々加速していて、最近のツバル周辺の平均潮位の上昇は4.3mm/年。2003年に比べたら現在の海面はかなり上昇しているでしょう。

↑いきなり別の話ですが、ツバルにもPCやタブレットとかの電子機器はあり、ツバルの人々はよくこのように映画を横になりながら見ていることが多いです。自分はこの事実にかなり驚きました。

そして、こちらこそが決定的な理由なのですが、ツバルの平均海抜は2mしかありません。平均の海抜なのでそれより低い地域はたくさんあり、先述のカバトエトエという集落は海抜が1m以下です。

珊瑚礁でできているツバルの島々には、山と呼べれるほど高い土地はなく、国土も狭いので、それこそ海の目の前に家がある人たちも多く、潮が高い時に窓かいら顔を出したら、その真下がもう海なんて家もあります。

ビローピットと呼ばれる箇所では、飛行場の滑走路建築のための土を集めるために掘られた穴がたくさんあり、海抜が0m以下となっていて、そういったエリアでは顕著に海水が地面より溢れ出てくるのです。

<ツバルに住む人々のリアルな声:迫られる選択>

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ツバルに住む人々は遠くない未来、故郷に住み続けることができなくなるかもしれません。それは島が完全に沈んでしまうというよりも、人の住める土地が減り、塩害で作物が取れなくなってしまったり海面上昇によって人が住むのに適した場所ではなくなってしまうからです。

そんな彼らに海面上昇・気候変動についてどう思うか、移住についてどう思うか、先進国をどう思うのか、100年後にツバルはどうなっていて欲しいか、などをインタビューをして動画にまとめました。

彼らは、気候変動による海面上昇や異常気象の脅威を日々感じています。ビーチが小さくなってくることは悲しいし、ツバルは細く小さい国で、強い嵐の夜は隠れる場所がないから、怖くてしょうがないと言います。

「島の人々はバイクにたくさん乗っていますし、自分たちですら島を沈めている要因の一端を担っている。」と語ってくれたバイクエンジニアの方がいました。

ツバルで排出される温室効果ガスの量は、先進国が今まで排出してきたそれとは比較できないほど微細であるにも関わらずです。

また、驚きだったのが、「ツバルが海に沈んでしまったらどうしますか?」という問いに対して、少なくない数のツバル人が「ツバルと共に沈む」と答えたことです。それは、長く島で暮らしてきたお年寄りに限ったことではなく、まだ二十歳にもなっていない若者たちも同じ意見でした。

でも中には、移住に前向きな人もいて、仕事や子供の将来を考えたときにはオーストラリアやニュージーランドに移住することは望ましいことだと考える人もいます。ただ、帰ってくる故郷がない、沈んでしまうのは悲しいことだと同時に語っていました。

さらに詳細にインタビューを日本語で書き起こしたものと、ツバルの人々の残された選択肢にはどのようなものがあるのかまとめたものもありますので、お時間のある際にぜひお読みになってください。

※上の2つリンク先、ツバルの今の潮位と連動してページが水の下に沈む仕掛けになっていて、はっきり言って読みにくいです(笑)。本来は、募金をしていただくと水が下がっていくという仕掛けなのですが、、、実は右上の×ボタンを押せば募金しなくても全文読めます!

<結びに:私たちの選択は?>

ツバルは、日本から飛行機を乗り継いで1日以上かかる、遠く離れた島国で、私たちの日々の暮らしとは無関係の場所かもしれません。

でも、私たちが今当たり前のように受けている経済発展による恩恵の副産物である「温室効果ガス」が原因で、胸の締め付けられる選択を迫られている人々がいます。

私たち一人一人の日々の生活は大きなインパクトがないように感じるかもしれません。でも、私たちの日々の選択が確かに、便利さと引き換えに誰かにしわ寄せがいってしまっている今の社会を形作っているのです。

あなたの選択は自由です。

でも、誰かにしわ寄せがいっている現実を知って上で、どのような選択をするか考えるとどうでしょうか。明日の選択は何か違うものへと変わる気がしませんか?

<参考までに>

田村 聡

田村 聡

1992年生まれ、東京都羽村市出身。
オーストラリアで環境学を学んだ後、ネット広告代理店にて勤務。
目標とするものは、千の手を持つお地蔵さん。穏やかで優しく、多くを救える人になりたい。もっと詳しく

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