
Spiral Clubはなぜ「暮らしを変える」を伝えているか
ネガティブな方向に向かっているヒトと自然の「スパイラル」を知って、私たちの暮らしからポジティブな方向へ変えていこう!

井関将人
突然だけど、Spiral Clubの「スパイラル」は、循環って意味。
循環って例えば…
資源がリサイクルされたり、エネルギーが再生可能だったり、持続可能性も「スパイラル(循環)」がキーワードだったりする。
それにスパイラルって自然の中にもたくさん潜んでるよ。例えば、木の葉っぱが枝の根元から先に掛けてらせん状に並んでいたり、DNAの構造だったり、さらには宇宙の銀河系の渦だったり…自然界には意外と色んな「スパイラル」が潜んでいる。(何か世界の真理に近づけた感じがしない?笑)
そして私の場合、環境問題の中でこのワードを考える時、大気・水・大陸が絶えず循環を続ける壮大な地球のスパイラルと、その土台の上に成り立つ人間社会を想像している。今回の記事では、そんなヒトと自然のスパイラルの現状を知った上で、私たちの暮らしをなぜ変えるか、についてお伝えする。

今、CO2の排出が原因で、ヒトと自然の間で巡る「スパイラル」がとてもネガティブな方向に向かっている。それによって、目を背けたくなるような悲しい事態も起き始めている…
こうした課題を解決していくには、ポジティブな気持ちで楽しみながら取組むことが継続の秘訣だと思っている。ただ一方で、現状に問題意識を持ち、それを変えたいと強い意志を持つことも大切だと、私は感じている。
だから今回は、少しネガティブな話になるかもしれないけど、私が知っている世界の現状について伝えたいと思う。
<今回の目次>
1.気候変動=負のスパイラル!?
2.「負のスパイラル」の一例:キダパワンでのデモ事件
3.気候変動が深刻化した世界の未来予想図
4.ヒトと自然がポジティブな「スパイラル」を描くために
1.気候変動=負のスパイラル!?
大気、水、そして大陸がそれぞれつながって、循環している地球。
そしてヒトと自然の間にも循環(スパイラル)は存在している。だから、ヒトの活動は人間社会の境界を超えて自然界にも影響を及ぼし、またヒトにも返ってくる。そんな循環は、時に誰もが予測し得ない事態を招くことだってある。
そんな予想を超えた事態を生み出しているものの一つが、CO2の排出と気候変動のスパイラル。化石燃料をエネルギーとして使い始めた産業革命の時代に、その燃料の使用によって排出されるCO2が地球全体の気温を上昇させ、数百年後に世界中がタッグを組んでこれに対処する事態になると、誰が想像していただろうか?(誰かいたら教えて!)
今、気候変動によってヒトと自然の間の循環がネガティブな方向に向かい始めている。
例えば…
自分が排出したCO2で気候変動を進行させ、
結果発生した異常気象により他国の農村で穀物が育たず食糧難が発生し、
適切な支援が入ることなく膨れ上がった不満が怒りに変わり、
過激なテロリズムに洗脳されて自分の近所でテロを起こす、
とか考えたらけっこう怖くない??
でもこれは妄想じゃなく、実際に起き始めている「負のスパイラル」の話。(詳しくは次のタイトルへ)
イスラム過激派から逃れてきた人々のキャンプ。干ばつが発生した地域では、住民の生活と共に心理的にも不安定になり、過激派グループの勧誘にも流されやすくなる。
出典:Guardian『Climate change will fuel terrorism recruitment』(https://bit.ly/2physv7)
自然と人間が生み出す循環はこうしたネガティブなものではなく、ポジティブでとめどなくハッピーなものであってほしい!と、私は思う。
メンバーがいつも記事の中で伝えている生活のヒントも、私たちの暮らしをハッピーにしながら、環境問題に関わる様々な「スパイラル」をポジティブにするために発信しているもの。
これから伝えるのは、既に世界で起きている「負のスパイラル」の一例。そして私たちが生活の中でできることが、負のスパイラルをポジティブなものに変えられるということ。
そんな現状を知ることで、未来のために多くの人が「暮らしを変える」ことを実践するモチベーションになれば嬉しい。
2.「負のスパイラル」の一例:キダパワンでのデモ事件
2015年10月から1年ほど所属した環境NGO FoE Japanでは、環境問題の最前線で、様々な地域で巻き起こっている「負のスパイラル」に触れることができた。その中でも印象的だったのが“2016 Kidapawan protests”。
それはある意味、大気と海水の通常とは異なる循環(エル・ニーニョ現象)が、人間社会の隠れていた歪みを露わにした事件だった。
■「エル・ニーニョ(El Niño)」って知ってる?
エル・ニーニョを説明する前に、まず地球を巡る水と大気の大きな循環について伝えておきたい。
海流と大気の絶え間ない循環が、地球全体の気候バランスを保ちつつ、雨季や乾季、そして日本のような四季を生み出している。
水温が暖かい地域では、海水が水蒸気となり上空へと上がっていくため上昇気流が発生し(低気圧)、水蒸気は上空で冷やされ水へ戻ると、雨となって海や大地に降り注ぐ。逆に水温が低い地域では下降気流となり(高気圧)、晴れ間が続いていく。
そして下降気流が大気を押し出すことで風が発生し、その風の力を受けて海の側でも循環を始める。
暖かい海水が平常時よりも東にズレている。
出典:JAMSTEC(https://www.jamstec.go.jp/j/kids/tazunete/016/)
しかし稀(3、4年に1度くらい)に、海流を東へと運ぶはずの貿易風(東からの風)が弱まり、大気と海水の循環が変化し始めることがある。これが一般的に「エル・ニーニョ現象」と呼ばれる現象だ。
太平洋沿岸地域の雨季と乾季のサイクルを狂わせる存在として知られていて、循環が変化したこの現象の期間中は、太平洋西部(東南アジア地域)に雨季が来ず、降水量が極端に少ない時期が続くことも。
ちなみにエル・ニーニョ現象については、研究者の中でまだ結論は出ていないものの、気候変動によって発生頻度が上がったり、規模が拡大する可能性が疑われている。
■干ばつ発生、それは「負のスパイラル」のサイン?!
2015年11月、そんな「エル・ニーニョ現象」は、フィリピン・ミンダナオ島にあるキダパワン・シティに大規模な干ばつを引き起こした。
地域の農民たちは約30万ヘクタール(円換算して100億円以上)の米・とうもろこしなどの穀物を失い、深刻な食糧難に陥った。
日本に住んでいると、深刻な自然災害が起きれば物資が届き、とりあえずの食糧と水、そして仮の住まいが提供されることを当然のように考えるかもしれない。しかしキダパワンで起きたこの災害(干ばつ)では、緊急的な食糧援助は5ヶ月もの間実施されなかった。
2016年3月29日、キダパワンの農民たちの生きるための闘争が始まった。
約500名の農民が国家食糧局の前に集結。翌30日には、6000名もの農民が大群となって国道を封鎖。
結果として、それを排除するために出動した警察などの治安部隊と農民たちが衝突し、少なくとも農民サイドで3名が死に、農民・治安部隊の双方で100名以上の負傷者が出てしまった…
6000名に対して死者はたった3名、だとしても生きるために社会に助けを求める声が黙殺されたとしたら…その悲しみはとても大きな負の力になってしまうのではないだろうか?
■世界中に広がる「負のスパイラル」のタネ
そして、私がNGOの経験を通して触れたキダパワンの事例のような「負のスパイラル」へと展開しかねない事態は、既に世界中で広がり始めている。
例えば昨年、英国メディア「The Guardian」が発表した記事『Deadly weather: the human cost of 2018’s climate disasters』では、2018年に気候変動が原因と見られる災害による死者は、世界で約5,000人、緊急支援を必要とした人数は約2,890万人に上った、と報じている。
また気候変動がさらに進行してしまうと、エル・ニーニョのような自然現象はより極端化して、人々の想像をはるかに超えた被害をもたらし、人間社会にも副次的に様々な影響を与えることが予測できるのではないか。
続いて、そんな気候変動が進行した未来に関する衝撃的な将来予測をご紹介する。
3.気候変動が深刻化した世界の未来予想図
2018年3月、世界銀行が発表したレポート『Groundswell: Preparing for Internal Climate Migration』が伝えたこれから気候変動が世界に生み出かもしれない予想図は、私にとってとてもショッキングな内容だった。
2050年までに、なんと世界で1億4000万人以上が気候変動を起因とした国内移住(ここでは主に農村部など地方から都市部への国内における移住)を迫られるとか!
こうした気候変動による国内移住の将来予測、原因、そして対策について、下記の図によくまとめられている↓(図の要約を下記に用意したよ)

<将来予測>
気候変動による国内移住は、主にサハラ砂漠以南(8,600万人)、南アジア(4,000万人)、中南米(1,700万人)の3地域を中心に、世界で1億4,300万人以上発生することが予測される。
<原因>
主な気候変動による国内移住の原因として、以下の3つが挙げられている。
・農作物の生産量の減少
・干ばつなどによる水不足
・温暖化等による海面上昇
<対策>
代表的な対策として挙げられているのは、以下の3つ。
・温室効果ガス(CO2、メタンガスなど)の排出削減
・国内移住の発生を見込んだ国内の開発計画の作成
・国内移住の状況を把握することに役立つ事業等への投資
今から対策を講じれば予測される移住件数の約80%程度を削減できるかもしれないとのこと。もちろん一番の対策は、CO2など温室効果ガスの排出削減。
このレポートは国内移住に焦点を当てているけど、世界では既に国外への移住も含めた気候変動による移住者が発生し「気候難民」と呼ばれている。(スパイラルメンバーによる「沈みゆく楽園:ツバル」の記事をチェック!)
実際に国内移住が発生した場合、どんな負の影響を生み出していくのかについては、国際社会や各国政府の対処方法や地域レベルでの対応能力などで大きく変わっていく。(例えばシリアでの干ばつと紛争のつながりについてこんなレポートが出てるよ)
これまで、既に起きてしまった「負のスパイラル」を紹介し、そしてこれから気候変動が加速する中で予測されるショッキングな自体についてお伝えした。最後に、そもそものヒトと自然の関係についてみんなに伝え一緒に考えたい。
4.ヒトと自然がポジティブな「スパイラル」を描くために
人間社会は、自然界の土台の上に成り立っている。だから自然が豊かじゃないかぎり、人間社会は成り立たない。
もっともわかりやすい例が食糧。キダパワンでは、作物が育つ気象条件が変動したことで、まさにその食糧の確保が揺らいだ。それ以外にも、水、木、布、金属、プラスチック…私たちの生活や社会を構成するあらゆるものは自然界の資源を元にしており、その資源は様々な自然条件の元でその形や性質にたどり着いてる。
“Biosphere(生物圏)”が人々の社会(Society)や生活・経済(Economy)の根底にあることが示されている
(作成:Johan Rockström and Pavan Sukhdev, Stockholm Resilience Centre)
だから温暖化などによる急激な自然界の変化は、災害や飢餓といった直接の影響だけでなく、社会経済のシステムや人々の生活に至るまで、様々な「負のスパイラル」を繰り広げていく。
こうした事態を防ぐためには、食糧援助を即時に実行するオペレーションを政府の側で整えたり、エル・ニーニョ現象の発生時でも育つ作物を地域で栽培するなど、対応方法は色々ある。ただ真っ先に取組むべき解決方法は、「これ以上気候変動を進行させないこと」ではないだろうか。
そのため、上記世界銀行のレポートの<対策>で挙げられている中でも、CO2など温室効果ガスの削減に取り組むことが最も重要だと私は思う。
私たちの生活の中では、電気を使うのにも、電車や車・飛行機で移動するのにも、プラスチック素材など日々消費するものを生み出すのにも、捨てたものを焼却処分するのにも、その全ての過程でCO2が発生する。
だから、暮らしの中で環境への影響を考え、CO2の排出量を減らす行動をとることは、「一番身近な平和活動」ではないだろうか。
それは、
でもそんな暮らしの変化を無理に進めることは、それはそれで心に「負のスパイラル」を生み出してしまうかもしれないから…
あなたなら、自分にとっても自然にとっても良いスパイラルをどうやってつくる?


井関将人
東京生まれ東京ときどきハワイ育ち。自然は居場所、都会は戦う場所。環境NGOでの勤務を経て、現在は東京大会と持続可能性に関する若手のプラットホーム「SUSPON Youth」の代表を務め、「スポーツ・文化・環境」の3分野でSDGsを掛け合わせた事業を展開中。メガ・イベントを通して「サステナビリティ」を価値基準とする世代の創出を目指す。もっと詳しく


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