
今日食べたものと地球とのつながり、考えたことある?
生産・流通・消費・廃棄から見る食べものと地球との関わりについて

黒坂 陸
<目次>
☞記事のきっかけ
☞環境問題を解決するのに、なぜ自分は「食」に辿り着いたのか?
☞廃棄 – 食べ残しが地球をあったかくしてしまう? –
☞消費 – TVを見ながら1人で食べるコンビニ飯 –
☞流通 – 目の前に広がるメキシコの畑 –
☞生産 – 食べものを”育てる”ということ –
☞食べるという環境活動
☞記事のきっかけ
りくです。L(a)unch Partyでは食についてみんなに考えてもらうワークショップをMioと実施。そこで参加者のみんなとの交流で発見したのは、食べものと地球に関連性を感じている人が思ったより少ないことでした。
食べたものと地球はとっても影響しあっています。知ることによって食べものの捉え方が、生きるための「食料」から、”とてもポジティブなパワーを持ったおいしいなにか”になるかもしれない…
こんなワクワクをきっかけに、食べものと地球がどのように影響しあっているのか、複数回に分けて連載していきます!
記念すべき第1回目の連載は…「食べものが地球にもたらす影響」を見ていこう!

参加してくれたみんな、ありがとう!
☞環境問題を解決するのに、なぜ自分は「食」に辿り着いたのか?
生まれたころから気候変動、地球温暖化という単語はテレビのニュースで流れており、とても身近に感じていました。
だけどそれは単語だけで、実際地球全体の気候を変化させるような事象に対して私たちだけではどうしようもできず、国がなにか大規模な対策をやっていてどうにか解決できるだろうという心持でありました。
だって、自分一人にできることは限られていて、それで地球全体が変わると思えていなかったから。
加えて、気候変動の影響は、少なくとも数年前は首都圏に住む学生にとっては、夏の「今年めっちゃ暑くね」か冬の「今年は過去一寒い」でしか語られず、その深刻度はエアコンの設定温度を変えることによってもみ消されていた気がします。

それでも環境に関する問題意識を持っていた自分は、
「何かを変えなきゃいけない気持ちはある一方で、何を変えるべきなのかがわからなかった」です。
例えば、エコなファッションやモノはとっても魅力的に見えたけれど自分がそのころ抱いた疑問は「地球上のみんなが関心を持てるものはなんなのか」ということ。
地球上の人口約74億人全員が、何かを食べなければ生きていけないから、「食」は絶対にみんなが関わることができる。
そんでもって、ご飯を食べることって幸せな気持ちになれることだと思って!
その食べものが地球に優しくなったら、どっかの会議室で気候変動なんかとは無縁だと思っている偉いおじさんの口から、将来更なる気候変動の影響を受けることになるかもしれないこどもの口まで巻き込めるのではないかと思ったからです。
じゃあ具体的に毎日食べるものと気候変動がどのように結びついているんだろうか?
廃棄、消費、流通、生産の順に遡ってみていきましょう。

食べものは畑から川や海、工場など複雑な旅路を経て、私たちのお皿の上に乗っています。
☞廃棄 – 食べ残しが地球をあったかくしてしまう? –
食料ロス・廃棄1は最近メディアで取り上げられるようにましたが、世界の1/3の食料は食べられずに捨てられているって知っていましたか?
世界全体で捨てられている食料の生産、流通、廃棄する全行程の地球温暖化ガスの総排出量は、中国、アメリカに次ぐ世界第3位を位置しています。想像してみて、巨大なごみの国が食品ロスや私たちの食べ残しによって出来上がっていることを…。

生産から廃棄までの過程で出る温室効果ガスを合計すると、
なんと世界全体での地球温暖化ガス排出量の約10%も占めています…。
食べものを捨てることはただ「もったいない」だけではなく、廃棄のために燃やすことで二酸化炭素を排出してしまうか、埋め立てた後にメタンが発生してしまい、気候変動にも貢献してしまっているんです。
ちなみに、メタンは二酸化炭素よりも温室効果が約28倍ほど高いって知っていましたか2?

恵方巻だけではないんだよなぁ。©日本フードエコロジーセンター
ちなみに、日本人の平均的な食料ロス/廃棄の量は毎日1人、おにぎり約1個分。これに日本の全人口1億2100万人を掛けると、途端に捨てられたおにぎりで心が一杯になる。
1.日本では食品ロス(Food Loss)とされていますが、世界的には食料ロスと廃棄を合わせた食料ロス・廃棄(Food Loss and Waste:FLW)が一般的。わかりやすい説明を見つけたので、もっと知りたい人はこちら!
2.IPCC, “AR5 Synthesis Report: Climate Change 2014,”https://www.ipcc.ch/report/ar5/syr/.
☞消費 – TVを見ながら1人で食べるコンビニ飯 –
消費の方法が変化を遂げることで、今までとは違ったところにエネルギーが使われるようになり、それは温室効果ガスと切り離せないことがほとんどです。
昔はみんな手作りを食べていましたが、1960年以降から外食や中食3が増えていきました。これを読んでるあなたは、どのくらいの頻度で外で食べる・外で買ったものを食べますか?

お弁当を廃棄していたのを思い出します。©livedoor
国内のコンビニの数は増加の一途をたどり、今では5万店舗を優に超え、集中しているところでは10m歩いたら次のコンビニがある。
図表3を見てもらうとわかるように、外食や調理食品などに対する支出が上昇しているのが分かります。

どちらを買うことが多いですか?
コンビニが毎日24時間空いていることに対して問題提起がされたけど、それはエネルギーの面から見ても考え直さなければならない時がきてるかもしれません。
もちろんエネルギー源によるのではという指摘はあるけれど、日本国内においてはその限りではないことが一般的です。

3.農林水産省によると、中食はレストラン等の外で食事をする外食と、家庭内で手づくり料理を食べる内食の中間にあり、市販の弁当やそう菜、家庭外で調理・加工された食品を家庭や職場・学校等で食べることや、これら食品(日持ちしない食品)の総称としても用いられているとのこと。
☞流通 – 目の前に広がるメキシコの畑 –
そのような食料をスーパーやコンビニに並べるために必要な流通も、地球温暖化との関係性とを考えるうえでは欠かせません。温暖化の主な原因であるCO2の排出量として、よく用いられる指標にフードマイレージ、カーボンフットプリントやエコロジカルフットプリントなどが存在します4。
フードマイレージの視点から、日本に住んでいる私たちが食べているものを見てみると、高い確率でそれらが遠く海を越えてやってきているのが分かります。
日本の一人当たりのフードマイレージは2010年時点で6.770t/km5。下のグラフにも示されているように、他の国々の値よりも遥かに高い数値になっています。

それだけ一人一人の食が温暖化加担にしてるということ。
しかし、単に距離が長いから環境負荷が高いというわけではありません。例えばコールドチェーンと呼ばれ、冷蔵する必要があるものは更に多くのエネルギーを要します。
特徴的な例はなんとみんなが大好きアスパラガス(ちなみに筆者は大好きです)。
アスパラは冷蔵で飛行機で輸送する必要があり、飛行機は多くの地球温暖化ガスを排出するするため、結果環境負荷が高い食べ物になります。


日本で売っているメキシコ産のアスパラはエコロジカルフットプリントが他の野菜と比べても格段に大きいです。
海外産のマツタケ・いちご・アスパラガスなど鮮度維持のため短時間輸送を必要とする品目は、航空で輸送されることが多いです。
輸入されるアスパラに限っては、アスパラの出荷量が多くなる2~3月にメキシコからの海上輸送もあるものの、2015年は対日輸出量のうち1%ほどしか占めていないので、ほとんどが空輸と考えてよさそうです6。
4.フードマイレージは対象の食べ物が移動した距離(食糧重量×輸送距離で計算)。カーボンフットプリントは温室効果ガス排出量、エコロジカルフットプリントは人間の環境負荷を面積によって示しています。
5.農林水産省「(3)環境保全に向けた食料分野での取組」http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h22_h/trend/part1/topics/t3_01.html
6.独立行政法人農畜産業振興機構「メキシコにおけるアスパラガスの生産および輸出動向」https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1707/kaigaijoho02.html
☞生産 – 食べものを”育てる”ということ –
最後に、食において最も重要な「生産」。
地球温暖化と生産にどのような関わりがあるんだろう?
例えば、アマゾンの森林は地球の二酸化炭素の吸収の多くを担っていますが、それがここ数年は急速に破壊されています。アマゾンの森林伐採の80%は、家畜の放牧のために木を切り開き、牧草地に変換されています7(イアンが書いた記事にも載っています)。
これはつまり、肉の需要が上がる⇨森林伐採⇨温暖化加速!ってこと。


多くの加工品に利用されているパームオイル(ポテチやお菓子などで植物油として表示)も同様に、熱帯雨林の開拓を大きく進めています。パームオイルの需要が世界で上昇していることから、プランテーションが増加し、森林破壊の大きな原因となっているのです。
木がなくなるということは、二酸化炭素の吸収量が減るということ。これは結果として空気中の二酸化炭素が増加することを意味しています。
また、森林を開拓して育てられている家畜も、地球温暖化の大きな原因の一つとして知られており、家畜部門で世界全体の温室効果ガスの約14.5%を占めていることは、あまり日本では知られていません。
その中でも、牛などの食べものを一度吐き出して摂取する反芻動物のげっぷやおならはメタンで構成されており、14.5%の内のなんと約39%!温室効果ガスの総量と比較すると、約5.7%も占めているという計算になります…(げっぷ、おなら恐るべし)。

化学肥料や堆肥なども微生物と反応して二酸化窒素を出すし、その化学肥料は実は化石燃料から作られています。
7.Machovina, B., and Feeley, K. J., “Meat consumption as a key impact on tropical nature: A response to Laurance et al.,” 2014, Trends in Ecology and Evolution, 29: 430–431.
☞食べるという環境活動
ここまで紹介してきた食にまつわる地球温暖化への要因はほんの一部で、その影響もよく目を凝らすと気候変動だけではなく、生態系の保全や水質汚濁、土壌汚染など広範囲にわたっています。
あなたが今日一日で食べたものは、この記事で示した環境への影響と関わっているだろうか?
それ以前に、関わっているかどうかを今まで考えてみたことはあったでしょうか?
この記事でこれを読んでる皆さんが、食べ物と環境は繋がっているかもしれない、考えてみようと思ってくれたら大成功!もしもう「そんなのわかっているよ」という人は、是非アクションに移していこう!
食べものを残さず食べたり、買い物の時に産地を気にしてみたりすることは、誰でも今日からできるアクションの一つです。
なんてったって、あなたが解決策になりえるのだから。
食に関する活動の名前を挙げてみると…
フードバンク、コンポスト、ドギーバッグ、省エネ、シェアリングフード、スローフード、地産地消、流通の電子化、エコロジカルフットプリントなどの表示、ミートフリーマンデー、パームオイルフリーの認証制度などなどなどなど、それぞれの分野において数えきれないほど多岐に渡って実施されています。
私はこの中でも畜産について深く見ていきたいと思うようになりました。理由は簡単、一番影響力が大きいと思ったから!
今後の連載では、畜産についてもうちょっと深く掘っていくので、またその時お会いしましょう。
You Are What You Eat.
Victor H. Lindlahr, 1942
<関連記事>
さらにアスパラについて知りたいと思った方向けの参考記事(English) from National Geographic
https://www.nationalgeographic.com/people-and-culture/food/the-plate/2016/02/09/the-surprisingly-big-carbon-shadow-cast-by-slender-asparagus/?utm_source=reddit.com
エコロジカルフットプリントに関する質問(日本語) from WWF
https://www.wwf.or.jp/activities/addinfo/3281.html
<引用>
図表1: Johns Hopkins University Center for a Livable Future, “The Food System,” http://www.foodsystemprimer.org/the-food-system/index.html より筆者加筆
図表2: Kai Robertson, “Overview of Global Food Loss + Waste Protocol,” https://provisioncoalition.com/Assets/common/Shared_Documents/Kai%20Robertson%20-%20Overview%20of%20the%20Global%20Food%20Loss%20Waste%20Protocol.pdf より筆者作成
図表3: 総務省統計局「明治から続く統計指標:エンゲル係数」https://www.stat.go.jp/info/today/129.html
図表4: 経済産業省「平成29年度(2017年度)エネルギー需給実績を取りまとめました(速報)」p.5、https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/pdf/stte_025.pdf より筆者作成
図表5: 農林水産省「(3)環境保全に向けた食料分野での取組」http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h22_h/trend/part1/topics/t3_01.html より筆者作成
図表6: Heller, M.C. and G.A. Keoleian, “Greenhouse gas emission estimates of U.S. dietary choices and food loss,” 2014, Journal of Industrial Ecology より筆者作成

黒坂 陸
黒坂陸は神奈川生まれ、アイデンティティは広めに首都圏。食べる顔はCMに出てくるレベルで幸せそう。チェコでのキャンプをきっかけにヴィーガンになる。「食」に関連する問題に興味深々。大学では市民社会を軸に社会問題について学ぶ。Spiral Clubを通じて、美味しく環境問題を解決できるような方法を見つけたい!もっと詳しく


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