森林に値段をつけたらいくらになるの?

自然を守ることが経済価値に繋がればいいよね。そんな事例を紹介!

2019.01.31 伊藤 聡士(すっぴー)

伊藤 聡士(すっぴー)

自然を守る取り組みを広げるには?

森林を守ることがお金に繋がる仕組みは、実際にある。けれど、そこまで大きくなっていないのはなぜなのだろう?

実は、気候変動を食い止めるのに森林保全はとても効果的。ある研究によると森林保全が最も効果的な気候変動対策だと結論付けたものもある。逆に言うと、森林保全ができなかった場合の打撃は大きい。守られるべき森林が減少や劣化することで排出されるCO2は、世界中のものの輸送で排出されるCO2よりも多い。割合にするとCO2排出全体の10~20%もある。

とは言っても森林保全はお金にならないよね、という声が聞こえてきそうだ。森林保全がお金になる例は後ほど紹介する。

自然を守りながら経済成長ができるんだ!という考え方や、いやいや経済成長を求める資本主義とサステナブルな社会は両立できないんだよ!という反対の考え方もある(詳しくはリサの記事「自然って、いくら?」がおすすめ!)。そもそも今の社会の仕組みが原因で自然が壊されてきたのだから、今の仕組みに沿った方法で解決策を見つけることはできないのでは?など。

どの意見が正しいとは言い切れないけど、とにかくより良い未来に向かっていくことが大切。後退や現状維持を続けるよりも、自然を守りながら経済を活性化させていく、そんな新しい解決策を見出していってもいいのではないか?と思う。

お金が何よりも大事だと思いがち?

現代は資本主義が進みすぎた状態にある。多くの人はお金という「将来の可能性」を蓄積することに集中する。以前の資本主義ではお金はモノを得るための道具だった。将来への根拠なき不安があるときに人はモノよりも将来の可能性(お金)をためるようになる。これによりデフレが起き、稀に恐慌になる。一方で将来の可能性(お金)を信じられなくなった場合には、人はモノを求めハイパーインフレになることがある。現代は、巨大企業がお金をため込んでいるがお金を本当に必要としている人には届いていない。

GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)のような国家を超えるお金を溜め込んだ組織を作った人がヒーローで、みんなの憧れとなっている世の中。たぶん彼らは良い人たちだけど、人間性が評価されているわけではなく、お金を溜め込んだことを評価されている。

熱帯林を伐採してパーム油を生産しても、低賃金で長時間働かせて作った服でも、お金を溜め込むことができれば評価される。お金を持っていることがステータスである社会。そこでは格差が大きく広がってしまった。上位8人の資産が下位36億人の資産と等しい。それはとてもおかしなこと。もっと人間性が評価される世の中であるべき。少し大袈裟かもしれないけれど、そんな世の中をつくるひとつのアイデアとしてカーボン・プライシングがあると思う。

カーボン・プライシング制度とは?

気候変動対策のひとつに、CO2を排出した分だけお金を払わせる、カーボン・プライシングという考えがあるんだ。そしてカーボン・プライシングには炭素税と排出量取引がある。

炭素税は、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に、炭素の含む量に応じて税金をかける方法。そうすることで化石燃料を利用した産業やみんなが化石燃料を消費する勢いを抑えられるかも。

ガソリンの価格が上がってしまうことで生活がより厳しくなってしまう人はいるかもしれない。そうした人をどう助けるかを考えることは必要。日本では”地球温暖化対策のための税”という名前で炭素税と同じ働きの税金制度が運用されている。CO2排出量1トンあたり289円で、とても安い。例えば、フィンランドの炭素税はCO2排出量1トンあたり62ユーロで約7500円もかかる!

CO2排出を抑えることが大切といっても、炭素税を始めたら経済成長を止めてしまうという声が聞こえてきそうだ。でも炭素税を始めてから30%以上もCO2排出を減らしたデンマーク(2014年排出量1990年比68%)は、同じ期間に経済成長のものさしであるGDPを1.4倍以上にしている。なので炭素税を始めたからって経済成長が止まるというわけではなさそうだ。”AしたらBになる”と単純に未来を予想できることは、そもそもあまりないからね。

このもくもくカーボンを出せば出すほどお金がかかる

排出量取引は、国や各企業がCO2(など気候変動の原因となっている温室効果ガス)を排出できる量を排出枠として決めて、排出枠を超えた分や超えなかった分をトレードできるようにする制度。例えばA社とB社の排出枠が100トンだったとする。A社は120トン出してしまった、B社は80トンしか出さなかった。A社は、排出枠を超えてしまった20トン分の排出枠をB社からお金を払って買う。するとA社は100トンの排出枠を守ったことになるし、B社は100トンの排出枠を守りながら20トン分は売ることもできた、ということになる。これは排出量取引の中でよく利用されているキャップアンドトレードという仕組みだ。

キャップアンドトレードの概念図(U.S. Energy Information Administrationより)

日本でどのくらい導入されているかというと、例えば東京都では2015年には約58万トン分のCO2が取引された。これは日本の2015年のCO2排出量全体の約0.05%にすぎないから、まだまだ少ないね。

排出量取引はどのくらい進んでる?

VerraというワシントンDCに本部を持つ非営利団体が、Verified Carbon Standard (VCS) や The Climate, Community and Biodiversity Standards (CCB Standards)といった自主的な排出権取引の仕組みをつくっている。VCSはちゃんとした排出権取引のプロジェクトなのか審査するためのテスト項目みたいなもの。VCSは自主的な排出権取引の中で最も取引量が多い。CCB Standardsは気候変動、地域社会、生物多様性の全てに良い影響を与える土地利用のプロジェクトを見極める制度。REDD+プロジェクトの他に、植林やアグロフォレストリー、持続可能な農業、湿地の保全と再生なども対象になる。

VCSのデータベースを見てみると2019年7月現在1553ものプロジェクトがある。年間のCO2削減量が一番多いプロジェクトだと7865277トンCO2、これは日本全体の年間排出量の約0.6%らしい。数字が多くてあまりピンと来ない。CCBの方は2019年7月現在187のプロジェクトがある。

排出量取引は国や企業に関わる制度で私たちの生活からは少し遠いかも。私は自分の生活の中で出してしまったCO2量を把握して、出してしまった分を埋め合わせるカーボンオフセットをしたい。同じように考える人はりりあんの書いた記事「私流カーボンオフセット術」がおすすめ。とてもわかりやすく、大切な情報がたくさん!

REDD+なら森林保全がお金になる!

REDD+とは、失われる予定となっていた途上国の森林を保全することがCO2削減効果としてカウントされる仕組み。

REDD+の概念図(REDD+プラットフォームホームページより)

途上国はお金を得られるし、先進国は気候変動を抑えることに貢献したと評価される。どちらにとっても嬉しい仕組み。

国連の気候変動枠組条約(UNFCCC)では2020年からREDD+の実施を目指して進んでいる。実は2020年にはまだなっていないけれど、自主的な取り組みは進んでいて国内外でREDD+が実施されている。

企業に人気のバイオマス燃料・・・

企業が排出量取引で排出枠を買い取るときに、どのようなプロジェクトを選ぶかな?聞いた話によると値段で選ぶことが多いとのこと。同じ20トンの排出枠を買うならできるだけ安いものを買うということ。それが本当に自然を守ることに繋がるのかはチェックしていない。なのでプロジェクトに認証を与えるときには、しっかりとしたチェックをして本当に自然を守るプロジェクトを見極めないといけない。

バイオマスエネルギーの概念図

現状は眉唾物のプロジェクトが人気らしい。理由は安いから。眉唾物の人気プロジェクトは、ランドフィールガスの回収やバイオマス燃料など。ランドフィールガスの回収は埋め立て処分場から出るメタンガスなどを回収すること。確かにただ放出されるはずだった温室効果ガスを利用するのは良いこと、でもゴミを減らすことが根本的には大切だと思う。バイオマス燃料は適切な材料を使わなければ、自然を守るどころか壊すことになりかねないので注意が必要。良くない例としては、熱帯林を切り開いて作られたアブラヤシの畑からとれるパーム油をとったあとのヤシの殻をバイオマス燃料にすることなどがあるね。

お金の力で自然を守るナショナルトラスト

CO2への値段以外に生物多様性を考慮して値段を出したらいったいどれだけになるだろう。農場やパーム油をとるための畑にできるような金額の熱帯林はないと思う。とても高くて手が出せないような金額になるはず。

ピーターラビットの舞台になった湖水地方

自然をお金で買って保全する方法をナショナルトラストという。ナショナルトラストを世界で初めて行った一人は、あのピーターラビットの作者であるビアトリクス・ポターで、物語の舞台である湖水地方を買い取った!なんと一人で4000エーカーで東京ドーム約350個分も買ったようだ。お金がたくさん集まれば、買い取ることで自然を守る方法もある。

その他の面白い仕組み

Ecosiaというウェブブラウザを知っていますか?使っている人も多いかな。検索すればするほど植林がされる凄くエコなウェブブラウザで、Google Chromeの拡張機能として入れて使えるので便利。Google Chromeを使っているのと変わらない感覚で使える。Ecosiaは検索エンジンとしての広告収入の半分を植林に充てている。自分が何本の木を植えたか見ることができて元気がでる。とてもおすすめ。

私は会社のブラウザで654本の木を植えました(2019/07/23 現在)

他に、まだ完成していないけどterra0という面白いプロジェクトがベルリンにあるとスパイラルメンバーのリサに教えてもらった。AIをトレーニングして、森に声を与えるプロジェクト。誰かが木を切りたいときに、そのAIが環境的なダメージを計算して、「10万円なら売ってあげてもいいよ」みたいに会話ができるようになるらしい。

世の中には色々面白いアイデアがあるんだなと感心するよね。

森林に値段をつけたらいくらになるの?

実際にいくらで森林を買うことができるのか、森林買い取りの活動をしている団体のデータを元に簡単に紹介する。例えばアルゼンチンでアマゾンの熱帯林をサッカーのピッチ分買い取るのに、たったの2万7千円!アルゼンチンはとても安い。ボルネオ島のマレーシア領だと、同じ広さを買うのに126万円が必要だ。たいていはその間の値段で取引されているらしい。国によって値段の違いは大きいんだね。この値段の差はとても不思議なものに感じる。なぜなら、どちらの森もとても貴重で価値あるものだから。どちらの森も生物多様性が高く、気候変動を食い止めていて、価値の差は50倍もないはずだ。

おわりに

今回は森林保全にインセンティブが働く仕組みを中心に考えた。森林だけでなくサンゴ礁保全やVegan料理にインセンティブが働く社会になったらいいのに!と思う。「環境保全はお金にならない。」という声は何度も聞いてきたけれど、そうした声をひっくり返す仕組みをもっと広げていきたい。

Reference

REDD+プラットフォーム( https://www.reddplus-platform.jp/about/ )

WORLD LAND TRUST (https://www.worldlandtrust.org/what-we-do/validated-redd-projects/)

カナダ ノバスコシア州ホームページ ( https://climatechange.novascotia.ca/nova-scotias-cap-trade-program )

株式会社ノーリツ ホームページ ( https://www.noritz.co.jp/company/csr/kankyou/seihin/forestoffset2017_02.html )

J-クレジット制度 経済産業省 ( https://japancredit.go.jp/about/ )

Verraホームページ (https://verra.org/)

VCS プロジェクトデータベース ( https://www.vcsprojectdatabase.org/#/home )

CCBAホームページ (http://www.climate-standards.org/ccb-standards/)

CCB Standards 資料 ( https://s3.amazonaws.com/CCBA/Third_Edition/CCB_Standards_Third_Edition_December_2013.pdf )

CCB Standards について Forest Partnershipホームページ ( http://www.env.go.jp/nature/shinrin/fpp/certification/index3-4.html )

VCSの概要 一般社団法人 日本森林技術協会 ( https://www.ffpri.affrc.go.jp/redd-rdc/ja/reference/03/201401_applied_chap05.pdf )

海外の森林と林業 No.92 (2015) P.47 ( https://www.jifpro.or.jp/cgi-bin/ntr/documents/NET9246.pdf )

諸外国における炭素税等の導入状況 ( http://www.env.go.jp/policy/tax/misc_jokyo/attach/intro_situation.pdf )

WWFジャパン 温室効果ガス排出量取引/入門編 ( https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/1138.html )

国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィス ( http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html )

諸外国における排出量取引の実施・検討状況 環境省 ( http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/os-info/mats/jokyo.pdf )

日本の現状 JCCCA全国地球温暖化防止活動推進センター ( https://www.jccca.org/trend_japan/state/ )

伊藤 聡士(すっぴー)

伊藤 聡士(すっぴー)

1993年生まれ。夢は環境問題を解決すること。きっかけは小学生の頃、近所の自然が消滅し大好きな昆虫観察ができなくなったこと。大学院ではIPCCの報告に寄与する研究所に所属。東京大学大学院卒。環境学修士。2018年12月Spiral参加。もっと詳しく

質問はこちらまでお寄せください スパイラルクラブに寄付する

オススメ記事

  • 若いからこそできることがある#Fridays For Future

    『気候正義のために金曜日は学校を休みます。』日本でもスタートした、学生ストライキとは?

  • なんで美緒は東京に戻ってきたの?

    東京には戻ってこないつもりで荷造りした。気が付いたらまた東京にいた。もうスパイラルに包囲されてる!

  • 清水イアンでござる!!!

    知られざる清水イアンの全てを公開!ついでに宇宙の秘密も暴露しました。絶対に読まないで下さい!

    清水 イアン

    清水 イアン