サンゴが海のスーパーヒーローだって、知ってた?
サンゴの凄さを知って下さい!!!

伊藤 聡士(すっぴー)
「おかえりなさい」
潜ったことがない人は海の世界にようこそ。
色とりどりのサンゴと生き物たちが織りなす海のドラマ、海の楽園をみたことがありますか?
僕は船酔いをしながら沖縄のサンゴの海に潜りました。その美しい光景に目を奪われ、船酔いのことは完全に忘れ、永遠にここにいたいと思いました。普段見ることのできない海の中、そこは生き物のドラマであふれています。
こんなきれいなサンゴにはどういう役割・スーパーパワーがあるのでしょうか?
海の熱帯林と言われるほどの生物多様性の高さ
熱帯の沿岸は栄養分が少なくプランクトンが育ちにくいため不毛の地といえます。しかしサンゴ礁は海の砂漠のオアシスのようなもの。サンゴが栄養を作り出し、海の砂漠を豊かな楽園へと変えています。
サンゴは未知なる世界である海で、大きな生態系の基礎となっています。
サンゴ礁の面積は地球表面の約0.1%しかありませんが、実に海洋生物の25%が暮らしています 1 。本当に多くの生き物の住処となっています。海の熱帯林 2 と言われることもある、地球きっての生物多様性の高い場所です。熱帯林 (ジャングル) と聞くとたくさんの生物がいることを想像しますよね?ただ綺麗なだけではないんですね。
海の豊かな生態系をつくっている!
海の豊かな生態系はサンゴをベースに作られています。サンゴは自らの体の中に褐虫藻という食品工場を持っていて、体内で栄養を作り出すことができ、サンゴのフンや粘液は多くの海の生物の栄養になります。
サンゴがいなくなったら生態系にどんな悪いことが起こるか想像もできません。海の生態系が壊れてしまうのは間違いないですし、陸上の生態系においても恐ろしいことが起きるのは間違いないでしょう。
海の環境をコントロール!
サンゴは体内に褐虫藻という光合成のできる藻類を持っているため、植物と同様に光合成を行えます。光合成をして二酸化炭素を骨格 2 という形で固定します。そして長い年月をかけてサンゴの骨格は白砂になり、海辺の生物を支えることになります。実はサンゴが光合成により排出する酸素の量は木の6~16倍と言われています。そして地球上の約60%の二酸化炭素濃度のコントロールも行っています。つまり気候の調節に関わっている、文字通り海の熱帯林です。
サンゴがいなくなったら二酸化炭素濃度のバランスが崩れ、海洋生物のすべてに大きな悪影響となります。サンゴからの酸素供給も止まるので海の中の生物に十分な酸素が行き渡らなくなり、他の生物もいなくなっていくと考えられます。
5億人の生活の糧となる
サンゴ礁は5億人の収入源!また多くの人々の食料源です。人間の食べている魚の10%がサンゴ礁で獲られています。世界の全人口のおよそ5分の2が海洋から100km以内の沿岸域に住んでいて、多くが発展途上国の人々です。沿岸域では新鮮な魚資源は重要で、サンゴ礁のある沿岸域では、サンゴ礁の魚が重要な食料源となっています。例えば沖縄県ではタカサゴ類、ブダイ類、ハタ類、イセエビ類、タコ、ウニ、海藻など温帯域よりも多種な魚がとられています。
そして、強い海流や高波を和らげる防波堤(バリアリーフ)の役割もあり、沿岸に住む人々を守っています。
サンゴ礁は地球上の生物がつくる最大の構造物!?
ポリプの集合体であるサンゴは群体動物といい、ほとんどの種が細胞分裂によって増えることができ、複数の個体が繋がって一つの動物のようにみえます。たくさんの個体が繋がってサンゴ礁を作り上げています。有名なグレートバリアリーフは2000ものサンゴ礁が1600km以上にわたり伸びていて、宇宙からもはっきりと見えます。
国土のすべてがサンゴ礁!?
ツバルという国は、なんと国土のすべてがサンゴ礁でできています。大きなサンゴ礁の上で人々が暮らしているんですね。ツバルについて詳しくはツバル~沈みゆく旅行記~をご覧ください。
サンゴは生きながら海の生命を繁栄させ、死んでからは大地となる。人々の生活の糧となり、高波から人々を守る。地球全体の生態系のカギを握る、とても存在感の大きな生物。
南国リゾートで人々を幸せにする
死んだサンゴの骨格はやがて粉々になり、真っ白で綺麗な砂浜に。そして浅瀬の海底は粉々になったサンゴで真っ白であるため海はエメラルドグリーンです。ハワイ、グアム、沖縄といったリゾート地で、訪れた人々を幸せにするのに一役買っているんですね。
サンゴがスーパーヒーローであること、ご理解いただけましたでしょうか?
サンゴの危機
本来ならば、サンゴは環境が許す限り生き続けます。すでに地球上で5億4200万年という膨大な年月を絶滅せずに生き続けているのです。
しかし今、サンゴが死にゆく状況にあるのです。
「サンゴの白化」という現象を聞いたことがあるでしょうか?白化というのは海水温の上昇によってサンゴの中にいる褐虫藻が逃げ出す・衰退することで、白化状態が続くとサンゴは死んでしまいます 3 。現在、世界中のサンゴで白化が起こっています。
白化が起こる海水温の高さは約30℃以上。年毎に海水温は異なりますが、2016年夏の沖縄のサンゴ礁(石西礁湖)では良好なサンゴ礁はわずか1%のみ。99%のサンゴ礁は半分以上白化していました。世界的にみてもこの30年間で世界の約50%のサンゴがすでに死んでいます。
このまま状況が改善されなければ2050年にはサンゴが絶滅するとされています。
サンゴに危機が訪れているのはなぜ?
サンゴが危機に瀕している原因は複数あります。最も根本的な原因は地球温暖化により海水の温度が上がっていることです。海水温が上がることで白化が起こります。また海が二酸化炭素を吸収する量が増えていて、海の酸性度が上がる(海洋酸性化)ことでサンゴが骨格を形成しづらくなっているという原因もあります。
また、別の大きな要因に赤土の流出があります。
先ほど、宇宙からもはっきりと見える巨大なグレートバリアリーフを紹介しました。実は沖縄のサンゴ礁である石西礁湖の方がグレートバリアリーフ以上にサンゴの種類は豊富です。そんな世界でも有数のサンゴ礁である石西礁湖では、裸地になった夏のサトウキビ畑から赤土が流出し海が濁り、サンゴが呼吸できなくなり死滅してしまっています。
さらに別の要因として、生態系のバランスが崩れることや畑など陸地から流れ出る過剰な栄養 4 により、サンゴの天敵であるオニヒトデが大量発生が起こることがあります。
それぞれの解決策
■ 地球温暖化による海水温上昇
まず世界全体で取り組まなければならないことで、地球温暖化を食い止めることです。化石燃料を使わず再生可能エネルギーを使うこと。何を食べるのか選択すること。例えば環境負荷が高いので肉は食べない!など。温暖化を食い止められず、この先も海水温が上がり続けるとサンゴが絶滅してしまうといわれています。
■ 赤土流出
赤土の流出を止めるには沖縄県に限定していえば、畑への緑被活動です。緑被というのは夏のサトウキビ畑など裸地になってしまう場所に植物を植えることです。赤土の流出は雨の日に起こるのですが植物を植えておくと土が根に固定されて流出を防げます。
陸の赤土が海のサンゴに悪影響を及ぼすことから、保全区域にするなどで海だけを保全するという考え方では不十分であるとわかります。陸上での人間活動を考えることも重要です。
僕は学生時代に赤土流出を防止しつつ地方活性化もできるようなアイデアを考えていて、専門家の先生たちに良い評価をいただきました。そのアイデアを実行に移すプロジェクトを立ち上げる予定です。準備ができましたら記事にして公表するので、お楽しみに。
■ オニヒトデの大量発生
オニヒトデに関しては、大量発生したら駆除をしたらいいと思うかもしれないですが、対処療法的で根本的解決にはならないと思います(棘には強い毒があり危険なので、駆除は個人の判断ではやらないようにしてくださいね)。大量発生の原因は諸説ありますが、最も有力な説は海に生活排水や赤土が流れ込むことにより沿岸の海水の栄養が増えすぎてしまうことです。この仮説が正しければ赤土流出の対策をすることでオニヒトデの大量発生を防げるかもしれません。
私たちはサンゴ礁を守るために何ができるでしょうか?
■ 地球温暖化に対して個人でできることを実践しましょう
「温暖化に個人で取り組む 6つの方法(+おまけ)」で詳しく書かれているのでぜひ一読ください。これが一番重要(マスト)だと思います。
■ サンゴの植樹に協力する
間接的にサンゴの植樹に参加できる仕組みがあります。例えば、商品を購入したときに売り上げの一部をサンゴの植樹にあてるプロジェクトがあります。
■ エコツアーに参加してみる
今後自分も参加してみたいのですが、サンゴの植樹をエコツアーとして実施している例もあります。サンゴの苗木を買って自分のサンゴとして海に植樹し、成長の経過を観察することができます。
■ Green Finsの認証をとる
ダイビングショップで働いている人やこれから働きたい人?であればGreen Finsの認証をとるのはどうでしょうか。国連環境計画が立ち上げた認証制度で、環境に配慮したダイバーであることの証拠です。Green Finsをとって、ダイビングやシュノーケルによってサンゴ礁を破壊しない方法を人々に広めたり、サンゴのモニタリングをしたりしていただきたいです。
■ 赤土流出を食い止めよう
赤土流出を食い止めるため、サトウキビ畑の緑被活動に参加しましょう。緑被活動のボランティアは存在するのでしょうか?見つけた方がいらっしゃれば教えていただきたいです。前述しましたが僕自身は赤土流出を防ぐプロジェクトを立ち上げたいと考えています。多くの人が参加できる形にしたいと思っています。その時はお力添えいただければ幸いです。
日本は世界でも有数のサンゴ礁を持っています。赤土流出を止めることやサンゴの植樹を行うことで日本のサンゴ礁を守ることはとても意義あることだと思います。そしてもちろん、気候変動の問題に対して個人でできることの実践がマストですね。
皆さんの知っている解決策もシェアいただけますと幸いです。ラフな形で構いませんのでぜひぜひこちらまで。
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注釈
1 知られている全ての海洋生物種のほぼ4分の1。4000種以上の魚類、700種以上のサンゴ、何千種もの植物や動物に住処や食料を提供している。9万種もの生物がいると言われている。
2 サンゴは二酸化炭素を吸収し炭酸カルシウムの骨格としています。
3 白化状態が続かなければ死なずに元気を取り戻すこともあります。
4 畜産と農業により農地から流れ出る過剰な窒素やリンはサンゴの再生を妨げています。

伊藤 聡士(すっぴー)
1993年生まれ。夢は環境問題を解決すること。きっかけは小学生の頃、近所の自然が消滅し大好きな昆虫観察ができなくなったこと。大学院ではIPCCの報告に寄与する研究所に所属。東京大学大学院卒。環境学修士。2018年12月Spiral参加。環境解説YouTuber。もっと詳しく


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