げっぷと、おならと、気候変動の話

知らない人も、知ってる人も、改めてげっぷとおならのこと考えてみない?

2019.01.31 黒坂 陸

黒坂 陸

私の友達に、生まれてからげっぷを一度もしたことがない女の子がいました。
テレビでは、「私はおならしないの、だってアイドルだもん。」
こんなやり取りを聞いたことあるような、ないような。

はてさて、げっぷとおならがなんで気候変動と同じ文脈で語られるのか、意味の分からない人も多いはず。

若しくは、環境問題に高いアンテナを張っている人は聞いたことはあるかもしれないけど、詳しいことはわからないがほとんどでしょう。

そんなげっぷとおならと気候変動について、今回はご紹介させていただきます。

<目次>
反芻動物ってなんぞや!
げっぷとおならのメカニズム
マクロにみるげっぷとおなら
どうする、げっぷとおなら?


☞反芻動物ってなんぞや!

冒頭のげっぷをしない友達は人間の女の子のお話でしたが、今回主に取り扱うげっぷは人間のものではありません。今回のメインゲストは牛と羊。

この二つの動物に共通することは何でしょう…?

4足歩行、草を食べる、角がある、美味しい、穏やか、臭い…
こんなことが頭をよぎったでしょうか?

生態学的にはこの二つの動物は反芻動物(はんすうどうぶつ)に分類されます1
何だが難しい漢字ですね。
「芻」は訓読みではかる、くさかり、わらなどと読まれるそうです。

反芻とは特定の種の哺乳類が行う食べものの摂取方法です。
食べものを口で咀嚼し、胃に送って消化した後、また口に戻して咀嚼するという過程を繰り返して食べ物を消化する行為のことを指します。

28秒まで食べものを口で噛み続けていますが…。40秒まで見てみて!

これは、独特の消化器官が備わっているからこそ成せる業なのです…!

人間や豚の胃の数は…1個ですよね?これらは哺乳類の中で単胃動物に分類されます。
一方、反芻動物は4つの胃を持ち、それぞれ第一胃(こぶ胃:ルーメン、ミノ)、第二胃(蜂の巣胃:レティキュラム、ハチノス)、第三胃(葉胃:オマスム、センマイ)、第四胃(しわ胃:アボマスム、ギアラ)といいます。
単胃動物の胃に相当するのは第四胃なので、その前に3つの胃が存在するということです。

図表1. 4つの胃の構造

「なんでこんなに反芻動物についてこの記事は掘っているの」って?
反芻動物であることが、他の哺乳類(単胃動物)のげっぷやおならとの違いを生んでいるのです。

1.ちなみに他の反芻動物はヤギ、キリン、シカ、バイソンやヌーなど。

☞げっぷとおならのメカニズム

反芻動物は草の炭水化物をエネルギー源としており、これはデンプンなどの可溶性糖類とセルロース2などの繊維質に分けられます。
ちなみにデンプンとセルロースはどっちもグルコース(ブドウ糖とも呼ばれる科学で習ったやつ)が結合してできた炭水化物です。

唾液は“可溶性”糖類を吸収するのに役立ちますが、人間も同様に哺乳類は繊維質を分解する酵素を持っていません。
それじゃあどうやってもじゃもじゃ繊維質を吸収するんだ…⁉

そこで第一の胃、ルーメンが特に重要です。
ルーメンは4つの胃全体の約80%以上、腸などを含めた消化菅全体の約半分を占める大きさです。

このルーメン内には細菌を始めとする様々な微生物が生息し、主役的存在を果たしています。これらの微生物は繊維質を分解する酵素(代表的なのはセルラーゼ)を分泌し、この酵素が牛自身が消化できない繊維質を分解するのです。

具体的には、繊維質の主成分であるセルロースはグルコース(単糖)がくっついた多糖なので、これをグルコース単体(単糖)に分解するってこと。
なんで分解するのって?単糖の方が吸収しやすいから!

ちなみに人間や犬の大腸の微生物は食べ物の繊維質の内の5%程度、盲腸に沢山微生物が存在する馬では30~50%程度を分解します。

牛はどれくらいって?50~80%!ルーメンすごいね。

ルーメン君 by Gab

「んで、げっぷとおならはどこにいっちゃったの?」
もうちょっと、待ってくださいね、あとちょっと。

このグルコースも、更に酵素によって発酵が促進されることで、酢酸(牛乳にも入ってるよ)などの揮発性脂肪酸(VFA)とメタンになるのです。
VFAは反芻動物の主なエネルギー源で、総エネルギーの約65~75%をまかなっているんだと。

VFAはルーメンで吸収される一方、水に溶解しないメタンはげっぷやおならとなって外部に放出されます。

それで?って思ったあなた、実はここで重要なことは述べられました。メタンが反芻動物の中で生成され、これがげっぷやおならとなって外気に出ていっているんです!

それの何が問題かって?いやだから、“メタン”が出ちゃってるんですよ、メタンが。

以前書いた記事でも紹介しましたが、メタンはよく地球温暖化ガスの代表として挙げられる二酸化炭素よりも、地球をあっためる(正確には熱を閉じ込める)温室効果が28倍、研究によっては50倍ともいわれるほど高いです。]

2.セルロースは植物の細胞壁を作っています。

☞マクロにみるげっぷとおなら

では、げっぷとおならは世界全体の温室効果ガスの排出量のどれくらいの割合を占めているとおもいますか…?

世界の家畜の数を地球上の動物の個体数の割合からみると、野生の動物が4%、人間が36%を占める一方、残りの60%は全部家畜です。

数にすると年間で700億匹が屠殺されているんです。
その中で牛は約10億頭、重さで見た時に世界の食肉の22%程度を占めているとのこと。
ちなみに、牛1頭あたりが1日に排出するメタンの量は600~800ℓ程度。

いやそんなこと言われてもわからないって?

まず、畜産業界が気候変動に寄与している割合は14.5%3
これは大体車、電車、飛行機などの交通手段によって排出される温室効果ガスの総量よりも多いんです。
その14.5%のうち、げっぷとおならは3分の1以上の約40%4、温室効果ガスの総量の中では約6%を占めています。

世界のメタン排出量の内訳をみると、4分の1の25%を占めているって。

図表2. 種別による世界の地球温暖化ガスの排出量
牛だけで家畜全体の60%程度を占めます。反芻動物は赤で表しています。

そんな中、家畜の生産頭数は年々上昇傾向にあります。
特に上昇が見られるのアジアや南アメリカなど新興国と呼ばれる国々。

一方で、ヨーロッパを中心とした先進国は生産量が減少傾向にあります。日本の生産量をみると鶏肉は少し上昇しているものの、牛と豚は横ばいの状況です。

図表3. 地域別の食肉生産の推移

また、世界中で今後肉の消費量が増えることが予想されており、家畜も同じく増え続けることが予想されています。

いったい、将来は何百億頭になるんだろう…?

3. FAO, “Tackling Climate Change Through Livestock,” 2013, p.xii.
4. FAO, “Tackling Climate Change Through Livestock,” 2013, p.17.

☞どうする、げっぷとおなら?

Okayわかった、げっぷとおならが問題ならアイドルのように無くしてしまおう!…とはなかなかいかないのが、この温室効果ガスの排出源の厄介な所です。

例えばエネルギーなら、化石燃料から再生可能エネルギーへシフトするといった明快な解決策がある一方、生物の生理現象は同様にはいきません。
もちろん、世界中でいろんな対策が研究されていますが、これらは有効な解決方法となりえるでしょうか…?

特に開発が進んでいる国の一つがニュージーランド。
国民より羊の数の方が多いこの国。畜産が主要産業である一方、農業が国の温室効果ガス排出量の約48%を占めており、この大半が畜産によるものです。
もちろん主な排出源はげっぷとおならであり、気候変動対策にとって羊と牛のげっぷとおならは重要なアジェンダです。

例えば羊に装置を取り付けて、メタンであるげっぷを回収・変換したり、錠剤によってげっぷの量やメタンの割合を減らすなどが試験的に実施されています。

この写真は遺伝子によってメタンの排出量が違うとの研究から、各個体の排出量を測定し、
低いものを優先的に育てるという実験の最中。©AgResearch
©EPA / Laurent Gillieron

スイスのある研究所では14頭の牛に直径約20cmの穴をあけ、牛の消化機能についてモニターを行っています(2枚目の写真)。
これによって判明したのはオーツなどを通常の牧草に混ぜて与えると、牛の消化のエネルギー効率が上がり、またメタンの排出量を減らせるとのこと。

穴をあける箇所は麻酔されているものの、動物の権利を訴える団体から長い間批判されてもいます。
そりゃあ、ちょっとびっくりですよね。麻酔するよ~って言われておなかにこんな穴開けられたらと思うと。

また、今までは穀物で育った牛よりも、地面に生えている草を食べて育った牛(グラスフェッド)の方が、持続可能だというのが一般的な通説です。

しかし、グラスフェッドも屠殺に十分な体重に達するまでに時間がかかり、メタンを大気中に排出する期間が増えることから、温室効果ガスの総量は多くなる結果を示す研究結果5もあり、もう何が何やら…。

“やっべ…どうしよ。”


あなたならこのげっぷとおならによる気候変動への負担、どう解決しますか?

地球温暖化ガスの排出量に大きく貢献している分、これを減らすことは気候変動の大きな対策の一つにもなりえます。
確かにテクノロジーは今後も発展していくし、家畜の数が増えても何とかなるだろう!

そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない?

じゃあ私たちはそういった研究にどうやって関われるんだろうか…なかなか簡単には自分と結び付けられない人が多いいはずです。

でもちょっと待った、地球上の大半の人々が家畜に日常的に接しています。
え、牧場になんか住んでないだって?

「いやいや、スーパーマーケットにいつも売ってるやん。」

と、筆者は思ったので次の記事では、畜産による気候変動への負担を自分事にしている人たちについて考えていきます。

5. 関連記事に記載しました。


<関連記事>

記事で言及したグラスフェッドの研究論文:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308521X17310338
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4494320/
http://www.futureoffood.ox.ac.uk/grazed-and-confused

飼料に関してはフランスの企業も取り組んでいる様子:
https://wired.jp/2013/04/10/cows-methane/


<出典>

図表1: 社団法人中央畜産会「乳用種肉子牛飼育管理技術マニュアル 」 2010年、p.40、http://jlia.lin.gr.jp/hi_wakaushi/pdf/2-3-3.pdf

図表2:FAO, “Tackling Climate Change Through Livestock,” 2013, p.16, http://www.fao.org/3/a-i3437e.pdf を参考に筆者作成

図表3:Ritchie, Hannah & Roser, Max, “Meat and Seafood Production & Consumption,” One World in Data, https://ourworldindata.org/meat-and-seafood-production-consumption を参考に筆者翻訳


<参考文献>

反芻動物について:
http://www.ies.or.jp/publicity_j/mini_hyakka/42/mini42.html

屠殺の数関してはこの2つの記事:
https://faunalytics.org/global-animal-slaughter-statistics-and-charts/
https://ourworldindata.org/meat-and-seafood-production-consumption

日本の畜産の推移は農林水産省のデータを使用:
http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h27/h27_h/trend/part1/chap2/c2_3_10.html

ニュージーランドの地球温暖化ガスの数値:
https://www.mfe.govt.nz/sites/default/files/media/Climate%20Change/snapshot-nzs-greenhouse-gas-inventory-1990-2017.pdf

羊の実験について:
https://www.rnz.co.nz/national/programmes/insight/audio/2018645479/insight-farming-and-the-fight-against-climate-change

スイスでの牛の実験について:
https://metro.co.uk/2014/05/22/why-do-these-cows-have-huge-holes-in-their-sides-4736578/

黒坂 陸

黒坂 陸

黒坂陸は神奈川生まれ、アイデンティティは広めに首都圏。食べる顔はCMに出てくるレベルで幸せそう。チェコでのキャンプをきっかけにヴィーガンになる。「食」に関連する問題に興味深々。大学では市民社会を軸に社会問題について学ぶ。Spiral Clubを通じて、美味しく環境問題を解決できるような方法を見つけたい!もっと詳しく

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