
里山、生活と生物多様性をどちらも高める救世主?
生物多様性とは何か?生物多様性の減少は何が問題なのか?解決策の一つとして里山を紹介します。

伊藤 聡士(すっぴー)
環境問題は解決できないのではないか?と疑念を抱く人は少なくないかもしれません。
しかし、僕は希望を持っています。
多くの人が環境問題を解決するために熱狂しています。そのことはあまり知る機会がありません。
僕は多くの人が熱狂し必死になっているのだから、解決できないわけがないと思います。持続可能な社会が実現された未来が楽しみでなりません。
環境問題は大きく複雑な問題ですが、一人の力は偉大で、できることはたくさんあると思います。
何ができるのか一緒に考えていきたいです。僕は皆さんと共に全力で、環境問題を解決していきます。
そのために、僕を含めた皆さんがたくさんの具体的な解決策を知る必要があります。僕が知っている解決策をわずかながらここでシェアします。
無数にある解決策の中から今回は「里山」に焦点を絞ります。
環境問題の中にも様々な種類がありますが、生物多様性の減少に歯止めをかけ、循環型社会をつくることに寄与する仕組みです。
生物多様性とはどのようなものでしょうか?
説明がとても難しい概念ですよね。簡単にいえば「生きものたちの豊かな個性とつながりのこと」1 です。
地球では多様な生きものが互いに影響を及ぼしあいながら絶妙なバランスを保って生きています。この生きもの同士の関係性というのは、ものすごく複雑です。そして美しい。生きものが織りなす複雑なシステムは息を呑むほどに美しいです。
しかし色々な環境破壊により、この美しいシステム、つまり生物多様性が減少しています。
ではなぜ生物多様性の減少が問題なのでしょうか?
まず第一に美しい自然が失われていくことです。これは言うまでもなくとても大きな問題で、とても悲しいことです。
第二に大量絶滅が起こるということです。
過去5億年間に5度の大量絶滅が起こったと言われています。有名な恐竜の絶滅は5度目の大量絶滅にあたります。そして現代は6度目の大量絶滅期に入っています。その原因は人類の活動です。ジャングルを切り開いたり、海をゴミだらけにしたり、密猟をしたり、環境破壊と呼ばれる活動が引き起こしたことです。
我々は複雑なシステムを壊すのは得意です。しかし複雑なシステムを理解したり、つくったりすることは苦手です。
目標に向かって計算通りに飛んでいくロケットを作ることはできても、ハエ1匹、細胞1つをつくることもできません。
銃(金属の球を高速に発射するだけの単純なもの)で人の命を奪うことはできても、人を生き返らせることは到底できないです。
絶滅した生物や豊かな生態系を取り戻す方法を知らないのです。
第三の問題は、何が起こるかわからないということ。
上で書いた通り、複雑なシステムを理解できていないままに壊してしまっています。
直し方を知らないのに壊してしまっている。
金属の球でも心臓に当たれば人の命を奪ってしまう。同じように環境破壊によって人類文明の存続ができなくなるかもしれません。例えば「海の熱帯林」と呼ばれるサンゴの絶滅が大量絶滅や人類の文明崩壊のきっかけになるかもしれません。サンゴが心臓かもしれないのです。
どのように生物多様性の減少を食い止めますか?
色々なアプローチがあると思います。
生物多様性の高い地域を保全することがまず思い浮かびます。森林保全をすること、サンゴ礁を守ること、ジャングルを切り開くのをやめることなどです。
今回は、そういった積極的保全とは少し異なるアプローチで、人の生活が関わることによって豊かな自然を持続させる仕組みについて考えてみます。「自然と暮らす」生活スタイルである「里山」を紹介します。
里山
生態系を保全して、生物多様性の減少を食い止めるアイデアの一つです。
農村の生活を支えてきた自然のことを里山といいます。日本の田園風景を想像してください。
冬が近づくと山に行って木を切り出し、冬の間の燃料とします。また日々の食料は山で採れる山菜や畑で採れる野菜で、味噌や漬物も自前で作ります。
里山の生活ではお金はほとんどかからないですね。
里山には循環型社会といって、自然の恵みを利用して生活し、必要でなくなったものは自然に還っていく社会があります。
言い換えると、里山での生活では自然の再生能力を超えない分だけの資源を使っています。
このような社会では豊かな自然は持続していきます。日本が世界に誇れる生活の形ですね。
里山のように持続可能な形で身の回りの自然を保全し利用する方法は、SATOYAMAという言葉で世界でも知られるようになってきています 2 。またエコビレッジと呼ばれる里山的暮らしを実践するコミュニティなどが生まれています。今後里山を支えていきそうな技術としては、灯油などを使わず木質バイオマスを燃料としたペレットボイラーボイラーがあります。
里山と同様に人による手入れが入ることによって生物多様性が高くなっている沿岸地域を里海といいます。山だけでなく海においても、人の生活と良い関係を築いている自然が存在するのですね。
僕は幼いころに身の回りの自然に触れることができていました。しかし東京に住んでから20年、里山に入って作業するという経験はほぼありません 3 。里山に入り自然に手入れをするので自然のことを知ることができるでしょう。自然というのはいかに複雑で美しいのか、知ることが未来への大切な一歩だと思います。
オーレリアンの庭
「オーレリアンの庭」をご存知でしょうか?
昆虫写真家の今森光彦さんが30年かけて自宅の庭に作った里山です。オーレリアンとは「蝶を愛する人」という意味で、オーレリアンの庭には蝶々や鳥、カエル、カタクリなどたくさんの動植物が生きています。
人による適度な「手入れ」により生物多様性が高い環境をつくっています。
そして印象深いのは、この庭を手入れしている今森さんがとても幸せそうに暮らしていることです。森の恵みである薪を使って窯に火をつけ、庭で取れた野菜を使ったピザを焼く。気の置けない仲間たちとそのピザを食べて語りあう。
そんな調和のとれた素敵な生活が、里山にはあるのです。
私たちは里山にどのように関われるでしょうか?
先ずは里山の素敵なところを知ることがスタートだと思います。
大きく3つの方法があると思います。
実践する
里山で暮らすことです。日本は国土の実に4割が里山です 4 。
しかし生活様式の変化や農耕者の高齢化で里山の多くが放置されています。
絶滅の恐れのある動植物が集中する地域(ホットスポット)の多くが里山にあるようです。手入れの人出が足りていません。
また里山で暮らすことはハードルが高いですが、里山的な暮らしをすることはより簡単です。必要なものだけを買ってゴミをなるべく出さず(またはリサイクルする)自然のバランスを壊さないものを食べる。そのような持続可能な暮らしをもっと研究していきたいです。
応援する
里山を応援する方法があると思います。僕が思い浮かんだものは以下です。
里山で採れた野菜や山菜を食べる。
里山保全に取り組んでいる団体を応援する。
里山の手入れを手伝いに行く。
広める
里山について友達や家族と話してみること。意外にも身近なところで、里山暮らしを実践していた人がいるかもしれませんね。
里山に足を運んでみること。みたこと感じたことをみんなとシェアする。などなど何ができるか考えてみたいです。
皆さんの知っている環境問題の解決策もシェアいただけますと幸いです。ラフな形で構いませんのでぜひぜひこちらまで。
suppie@spiral-club.com
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1 環境省のWebページの説明を拝借しました。とてもわかりやすい言葉ですよね。
2 生物多様性条約第10回締約国会議において「SATOYAMAイニシアチブ」が提唱されました。原生的な自然の保全のみでなく人間が利用している自然についても持続可能な形で保全していくべきだという考えです。世界中に里山的な生活が知られるきっかけとなりました。
3 里山に入って農作業をするという経験は25歳現在できていません。富良野の里山に入り、林業の現場や山の手入れ、ジビエ料理などに触れた経験はあります。いつか里山で暮らしてみたいです。
4 H20年度重要里地里山選定等委託業務報告書の里地里山メッシュより。

伊藤 聡士(すっぴー)
1993年生まれ。夢は環境問題を解決すること。きっかけは小学生の頃、近所の自然が消滅し大好きな昆虫観察ができなくなったこと。大学院ではIPCCの報告に寄与する研究所に所属。東京大学大学院卒。環境学修士。2018年12月Spiral参加。環境解説YouTuber。もっと詳しく


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