自然写真家・高砂淳二さんに教わった「地球を巡る水」のこと

高砂淳二さんに、「地球を巡る水の話」を聞いてきた。

2019.05.09 尾崎靖(オジャッピー)

尾崎靖(オジャッピー)

先ごろ写真集「PLANET of WATER」を出版して、東京と大阪の「ニコン・ザ・ギャラリー」で、同名の写真展を開催中の自然写真家の高砂淳二さん。高砂さんは、海外のミュージアムでも写真が展示される世界的な自然写真家です。世界中を巡って地球の素晴らしさや美しさを写真で伝えている高砂さんに、Spiral-ClubメンバーのMinoriとおじゃぴーが、「地球を巡る水」についての話を聞きに行ってきました!

高砂淳二(たかさご じゅんじ)。自然写真家。1962 年、宮城県石巻市生ま れ。ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て 1989 年に独立。海の中から生 き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわ り合いなどをテーマに撮影活動を行っている。
松岡美範(まつおか・みのり)。スパイラルクラブの運営兼ライター。海の秘 密に魅せられて、ウミガメ、サンゴ、イルカの保全活動に国内外で取り組んで きた。スパイラルクラブでは、海を中心とした生態系をテーマを記事にしてい る。
尾崎靖(おざき・やすし)。エディトリアル・ディレクター。写真集や単行本 など、主に自然やオーガニックに関する書籍やコンテンツを編集している。ス パイラル・クラブでは、日々の生活の中で幸せのタネを見つける連載「Seed of Happy 見つけた?」を担当。

Spiral-Club「高砂さん、今日はよろしくお願いします。Spiral-ClubのMinoriとおじゃぴー(以下Ojapi)です。Spiral-Clubには、環境に関心が高い仲間が多く、各々自分たちでできるさまざまな活動をしています。今回の写真集と写真展のテーマは「PLANET of WATER」なんですね!とても美しい、奇跡的な地球の表情が写っていますが、すべて「水」がテーマの写真なんですか?」

高砂淳二さん(以下Takasago)「そうなんですよ。今回の写真集の90%は、ここ3年ぐらいで撮ったものですが、“水とその循環”、そして“水に生きる生き物”がテーマなんです」

高砂淳二さんの最新刊「PLANET of WATER」。

Minori「写真集では、山の水から始まって、私たちの身近な水、そして海に注いで蒸発してまた雨になる、という水の循環を描いていらっしゃるんですね! 最初に「地球の水の循環」を意識したのは、どんなきっかけですか?

Takasago「今から21年前に、人も来ないような絶海の孤島・ミッドウエイ諸島に、コアホウドリの撮影に行ったんです。コアホウドリの繁殖がテーマですが、そこは「太平洋ゴミベルト地帯」と呼ばれるほど海流がゴミを運んでくるところで、ビーチにはプラスチックごみがいっぱいで、コアホウドリのひながたくさん死んでいました。ヒナたちの体は腐っているのに、お腹だけ腐らずにそのまま残っていたんです。胃には、100円ライターやプラスチックやビニールごみがたくさん詰まっていました。ヒナは胃がいっぱいでエサの魚を食べられなくて餓死していたんですね。母鳥が海からご飯だと思って子供に与えたもので、子供が死んでいる。それを見た時、「なんとかしないと!」(と思った。僕が今理事をしている海の環境NPO「OWS」は、そんなことがきっかけで立ち上がりました。

Minori「それからずっと世界中を巡って撮影されているんですか?」

Takasago「水だけじゃなく地球のいろんな表情を撮って来ましたが、水は基本ですよね。地球は少々のことがあっても再生して、僕らを生かそうとしてくれている。でも、僕らは、たとえば水俣病のように自然がリカバーできないことまで気付かずに起こしているでしょ。そういうことがたくさんあると思うんですね」

Ojapi「最近、マイクロプラスチックの問題などで、私たちも一挙に、水の循環についてリアリティを持って感じられるようになりましたが、21年前からプラスチックゴミが、人間の知らないところで溢れていたなんて、驚きだなあ!」

Takasago「コアホウドリの死骸は、たくさんのことを僕らに伝えてくれますが、ただ、僕はそういう写真ではなく、僕らが知らない本来の地球の美しさをみなさんに写真で伝えて、「ああ、地球は宝物だなあ、大切にしていきたいなあ」と思ってほしいんです。人間はたくさんの問題を起こしているけど、地球は、僕らも含めてたくさんの命を生かそうとしてくれている。僕らが気づいて、意識を変えて欲しいと思っているような気がするんですよね。人間は自然を破壊することもできるけど、いいものを作り出す能力も備わっているから」

Minori「写真を見てると、本当に地球は美しいなあ、と思います。スパイラルの仲間でペットボトルを買っている人は本当に少ないんですが、それは、プラスチックゴミ問題を知っているからなんですね。知っていると行動が変わりますね」

Takasago「そうなんですね。同じものを見ても、意味がわかると見方が変わることがありますよね。たとえば、この写真、たくさんのアザラシの子供が生まれて、流氷上にいる写真です」

Minori「本当にたくさんのアザラシの赤ちゃん。この子たちは、この氷の上で成長するんですか?」

Takasago「お母さんアザラシから2週間たっぷりおっぱいをもらい、その後は泳ぎを練習しつつさらに2週間を過ごして、ひとりで海で生きていけるようになるんです」

Ojapi「まさに氷のゆりかごですね!」

Takasago「でもね、この写真を撮影してから別の場所に移って撮影をしていて、2週間後に、ふとカナダの流氷サイトでこの海域を見たら、この赤ちゃんたちの乗った氷が見当たらない。溶けちゃってたんですよ」

Minori「え? 赤ちゃんたちは?」

Takasago「まだ泳げないから、みんな死んじゃったでしょう、と。」

Ojapi「20年前も、もっと前も、4週間以上は氷があったわけですよね?それがアザラシの赤ちゃんが独り立ちできる前に消えてしまうぐらい温暖化が進んでいるんですね。お話を聞くと、同じ写真でもまったく違う印象がありますね」

Takasago「そういうこともあってアザラシの数が減っているわけですけど、それだけじゃなく、僕が聞いたのは、『ある一定の氷の厚さがないとプランクトンなどの微生物が発生しないが、温暖化で氷が薄くなってしまい、バランスが崩れてプランクトンが発生しなくなってしまった』というものです。プランクトンを食べる小魚もいなくなれば、その小魚を食べる魚も、その魚を食べるアザラシもいなくなる。そういう意味でも温暖化は影響しているわけです」

Minori「台風も水面を攪拌してくれるから、エルニーニョ現象で台風が起こらなくなると、海水が淀んでサンゴが死んじゃうと聞いたことがあります。地球生態系のシステムのバランスが崩れているわけですね」

Takasago「このホッキョクグマの親子の写真も、幸せそうでほのぼのしますよね。ホッキョクグマは7月から11月までの約4か月間は絶食して、氷が張ったら氷の上でアザラシを食べて生きているんです。氷は張るのですが、張る時期が遅くなってきて、溶ける時期が早くなってきています。アザラシ猟ができる期間が短くなってきているのです。それもあって、ホッキョクグマの個体数や生まれる子供の数も減っていて、体も小さくなってきています。そんなふうな連鎖を知ると、このホッキョクグマの親子の幸せそうな写真からも、いろんなことを感じられると思います」

Minori「そうですね。ツバルという島は、温暖化による海面上昇で沈みつつあるといわれているし、最近のwebニュースに載っていた、「あなたは1週間の食事の魚から、クレジットカード1枚分のプラスチックを食べている」という記事を読んだりすると、自然界で起こっていることは他人事じゃなく、私たちの生活とつながってると感じますね」

Takasago「地球の水は、僕らの体に一番関係がありますよね。体は水でできていますからね。すべての地球の命には水が必要。水を介して、地球と生命はつながっていると思います。僕は、この写真集を通して、そのことを言いたかったんです。水と私たちは一心同体だということですね」

Ojapi「自分(人間)も地球の一部で、地球に住む生き物、という感覚がわからなくなっていて、人間は人間、自然は自然、という感じが強くなっているような気がしますが‥‥」

Takasago「日本のほとんどはもともと神道の国だから、昔から、「自然に感謝しなさい」と言われて、自然に対する畏れを持っていたと思います。自然に生かされている感覚があった。でも、その感覚がなくなっているような気がしますね。お金を払ったからもらって当然、と思ってるけど、売ってくれた人にはお金は払ってても、地球にはお礼もしてないでしょ。

人間はあるときから、自然をコントロールできると思ったんでしょうね。本当は地球にはシステムがあって、僕らを生かそうとしてくれています。水も空気も、地球が与えてくれている。システムを理解して、ちゃんとシステムを守れば、地球は多様性に満ちた生命を育んでくれると思いますが、それを、人間の欲でやるからダメになる。人間のエゴを抑えないと、地球のシステムを守れない。だけど、一方で人間にはいいものを作り出す能力があるんだから、そういう意識を出せばいいんですよね。こんなに欲だけでいいのか?と問いかけるだけでも違うと思います。気づいたらすぐに変えた方がいいと思います。怖さで見て見ぬふりをしていても、ちっとも良くならないですから(笑)」

Minori「そうですね。淡水は地球の水のわずか1%しかない、というありがたみもわからなくなっていますね」

Takasago「水は、地球というシステムの中心にあるものですよね。すべての生き物は、水がないと生きていけない。私たちの体の中は海だし、水は地球を巡っている血液のようなものだと思います」

Minori「そういう意識に目覚めている人も増えていますよね。スパイラルの仲間も、環境に詳しい人、食に詳しい人、生き物が好きな人、ビーガンの人‥‥etc.と個人個人が興味を持っていることを追いかけていますが、そういう人が急速に増えているような気がします」

Takasago「僕は、人間の意識を信じてるんですよ。これまでは、地球は無限大だとみんなが思っていたから危機感がなかったと思うけど、今は「変えなければ」と思っている人が増えている。人間にはダメな部分もあるけど、作り直すことができる。スパイラル・クラブの話を聞くと、新しい人種が出て来たなあ、と感じますね。そういう若い人たちを応援したいと思います。今まで生活してきた生きる場所がなくなるということだけじゃなく、他の動物がいなくなるのがかわいそうだ、という感覚も新しいと思います。


その前の人は、ほとんど自分の欲だったから、他の生き物のことなんか考えてなかった(笑)。自分だけ良きゃいいという考えが、他の生き物を暮らせなくしている。古い人は、自分が生きられなくならないよう、権益だけを考えてるみたいに見えます。本来、日本人が一番自然を大切にしてきたはずなのに、商魂だけたくましい(笑)。それが、環境の問題を生んでいるのにね。


僕はハワイに撮影に行っていて、ネイティブの人から教わったことが2つあります。ひとつは、「アロハ(愛)を学ぶのが人間の役目」ということ。もうひとつは、「地球のバランスを保つのが人間の役目」ということです。だから、心の方でも進化が必要なんですね。それができないと、人間は争って利権だけを求めるようになってしまいます」

Minori「でもよく見ると、本当にムダも多いですね。津波の後で誰も海の近くに住んでないのに、大きな防波堤を作ってる。住民はいないし、陸からの水の流れも淀んでしまうのに、ずっと作っている。諫早湾もそうです。汚れた水が溜まっている。農薬で藻が発生して、農家の人はその水を使いたくないから『海に放水してくれ』と言っていますが、そうすると海が汚れる。みんな経済のことしか考えていない。また、最近は『サンゴに優しい日焼け止め』とかも売ってるけど、オキシベンゼンとか入っていて、ちっとも環境に良くない。でも、そのコピーを見てみんな買うでしょ。みんな、利益になるようにだけ考えてる。でも、経済を支えているのは、地球の資源、という考えがない。つながりが見えてないように感じます」

Takasago「37兆の細胞からできている僕らの体は、ほぼ同数の微生物の働きで守られています。そうして、結局、僕らは地球とつながている。そういうメカニズムやシステムがわかってくると、つながりの大きさや、そのつながりをもたらしてくれる水の大切さがわかってくると思います。僕らの住んでいる地球は、『PLANET of WATER』なんですから。

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高砂淳二さんの最新写真集『PLANET of EARTH』は、本当に見ていると心が深呼吸するような優しさと美しさに満ちています。まるで高砂さんが自然への愛と敬意を表現していることを知るマザーアースが、高砂さんにギフトしてくれたような瞬間がいっぱい! しかも、この写真集は、出版不況と呼ばれる現在、たった1週間で重版が決まったそう。高砂さんは、インタビューの最後に、「みんなの意識がだんだんと水や環境に向かっているようで嬉しいですね」と言っていました。もっとたくさんの人が、地球の美しさに気づきますように!

期間は終わってしまいましたが、写真展と写真展『PLANET of EARTH』の詳細については、こちらからご覧ください。

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<高砂淳二さんのプロフィール>

たかさご じゅんじ。自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。

ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。

海の中から生き物、風景まで、地球全体をフィールドに、自然全体の繋がりや人とのかかわり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。

<著書>

6月出版の最新刊「PLANET of WATER」(日経ナショナルジオグラフィック)をはじめ、月の光で現れる虹を捉えたハワイの写真集「night rainbow ~祝福の虹」、「Dear Earth」「ASTRA」、「Children of the Rainbow」、「虹の星」、「free」、「BLUE」、「life」、エッセイ集「夜の虹の向こうへ」、「yes」(詩人・覚和歌子と共著)「LIGHT on LIFE」(ともに小学館)、「PENGUIN ISLAND」「そら色の夢」「南の夢の海へ」(パイ インターナショナル)、「ハワイの50の宝物」(二見書房)、「クジラの見る夢 ~ジャックマイヨールとの海の日々~」(七賢出版)ほか多数。

<展示>

ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウンフジフイルムスクエア、渋谷パルコ、阪急百貨店、大阪大丸百貨店、コニカミノルタプラザ、オリンパスフォトギャラリーなど、写真展多数開催。

*海の環境NPO法人“OWS(Oceanic wildlife society)”理事

高砂淳二 オフィシャルウェブサイト   http:/www./junjitakasago.com

高砂淳二 x Nikon スペシャルサイト  ”The Planet”   

http://www.nikon-image.com/sp/theplanet/home.html

高砂淳二 facebook artist page         http://www.facebook.com/JunjiTakasago

写真提供/高砂淳二

インタビュー/Minori & おじゃぴー

テキスト/ おじゃぴー

尾崎靖(オジャッピー)

尾崎靖(オジャッピー)

エディトリアル・ディレクター。小学館在職中に雑誌『美味サライ』『旅サライ』を創刊。『アートオブシンプルフード』、『鮨 すきやばし次郎』などの書籍や、高砂淳二氏はじめ多くの自然写真家のビジュアルブックを編集。現在は、書籍などの編集のほか、写真編集講座の講師、食と健康に関するウェブサイトのキュレーションも行う。もっと詳しく

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