
サンゴのくしゃみ
海の中からも聞えてくる…は、は、は、っくしょい!

松岡 美範
は、は、ぶえっっくしょーーーい!!!!!!!
こんにちは、美範(みのり)です。
突然ですが、みなさんは花粉症に苦しんでいませんか?私は高校時代から今まで、花粉の季節になると箱ティッシュと目薬がオトモダチで、会話もできないほどくしゃみが止まらなくなります。
鼻水たらーり。そんな季節ですが、今回はサンゴの鼻水についてお話したいと思います。サンゴの現状や回復に向けての方法は、すっぴーの記事↓↓をどうぞ!
サンゴが海のスーパーヒーローだって、知ってた?
まず早速、こんなサンゴの姿を見たことはありますか?

(出典) http://www.wildsingapore.com/wildfacts/cnidaria/coralhard/coralhard.htm
どろっとした何かが垂れています。そうこれが、サンゴの粘液なのです。(今日は花粉症の話題から入ったので鼻水と表現しましたが、これはサンゴが分泌する粘液!)
他の種類のサンゴだと、こんな写真も。

(出典)http://www.wildsingapore.com/wildfacts/cnidaria/coralhard/coralhard.htm
サンゴ好きの方も、干潮で海面上にでたサンゴの姿はあまり見たことがないかもしれません。それではなぜ、サンゴはこのような粘液を出しているのでしょうか。でも、粘液の話をする前にもうちょっと基礎のお話を。
<そもそもサンゴって?>
鳴き声も出さない、足がニョキっと生えて動くわけでもないサンゴですが、彼らは動物です。硬い部分は、いわば骨。この骨の中に住むサンゴは、動物プランクトンや生き物の死骸の欠片を触手で捉え、口へ運び消化しています。消化した後のフンも、口と同じところから出てきます。
サンゴをもっと近くで見てみましょう。

円のように見えているのは、ポリプと呼ばれるサンゴの塊を構築するパーツです。ラテン語でポリ(沢山の)プス(足)という語源があり、サンゴが「サンゴ虫」という動物であることが良く分かります。プス(足)の部分は、触手のことを示しています。ポリプが細胞分裂などにより増えていくことで、サンゴの塊がどんどん大きくなります。この塊が時間と共に積み重なり、「サンゴ礁」として地形をも形成する規模になるのです。


ポリプが増えていくと、まるで別々の生き物が一緒に生きているように感じられるかもしれませんが、面白いことに形を成すサンゴは、沢山のポリプが集まった一つの生命体なのです。
一つの生命体であるがゆえに、ポリプ同士はお互いに信号を伝えあっています。例えば、サンゴの触手をかじる魚が来ると、かじられたポリプは、周りのポリプに「かじられる前に触手をしまっとけ!!」と警告信号を出すのです。
動物プランクトンを捕食するサンゴですが、この栄養だけでは(人間でいうと)餓死寸前になるほど足りない。そこで実は、全く違う方法で栄養を確保しているのです。そこで大活躍しているのが褐虫藻(かっちゅうそう)です。
<カッチュウソウ>
カタカナで書くと、宇宙人の言葉みたい。
「褐虫藻」という言葉、サンゴの話題が出るとしばしば耳にします。
この褐虫藻は漢字の通り藻の一種ですが、サンゴという動物の体の中を自由に移動できるという能力があります。そして植物の特性を持つ褐虫藻は、光を浴びて、二酸化炭素を吸うことで酸素を生み出しています。
光合成の際に栄養分(糖分など)が生成されますが、すごく謙虚な褐虫藻たち、自分用のエネルギーは全体の10%しか吸収しません。
残りの90%は住処を提供するサンゴに提供し、家賃みたいなものを払っています。
こうみると、サンゴだけが良い思いをしているようにも見えますが、褐虫藻にとってはサンゴのフンも、二酸化炭素だって活動に必要なエネルギー源となっているのです。
<サンゴの住む海>
サンゴが生きていくうえで重要な要素が2つあります。
・光がたくさん吸収できる
・暑すぎず、寒すぎない(サンゴにとっての適温は18度~28度)
サンゴの上に光を遮断するものがあると、太陽光を使って光合成をすることが出来ません。光を受けられないと、褐虫藻による栄養素の供給に影響が出ます。また深すぎても光が届かないため生きていけません(深海に住むサンゴもいますが、その話はまた今度!)。
また、濁った水がサンゴの近くに流れ込むと、水の中に含まれる粒子がサンゴへの光を遮ることになります。すなわち光を受けるための条件は、透き通った水であると言い換えることができます。
ここで頭の片隅に置いといてほしいこと!
サンゴは、透き通った海=栄養素が少ない海に住んでいる。
オキアミやプランクトンが沢山いるところには、栄養がたくさんといえますが、水の透明度としては低い。サンゴはそんな栄養がないところに生きています。
<ここからが、粘液のお話>

(出典)https://www.abc.net.au/news/2016-02-19/mucus-starting-to-leak-from-coral-near-heron-island-qld/7183920
うわ~、すっごいでてる。何なんでしょう、これ?
<粘液の正体>
ムチン粘液と呼ばれる植物由来の脂質が、どろっと分泌されています。
褐虫藻について触れたのは、この粘液分泌に一役買っているからでした。前に説明したように、褐虫藻とサンゴは協力して効率よくエネルギーを循環させています。サンゴがおなか一杯になったところで、余った栄養素こそがこの粘液を創り出しているのです。
<いつ見れるの?>
干潮時水面から上がり、ある程度時間が経ったサンゴから粘液が出ているのを確認することが出来ます。これは日差しにさらされたり、乾燥によるストレスにより粘液を分泌するからです。確かに、水の中で普段生活しているサンゴにとって、干潮時に水上での生活を強いられます。そう考えると、あれだけの粘液が出るのもうなずける。また、目で見えにくいですが水中でも常に粘液を出しています。
<粘液の役割>
粘液は、サンゴ自身の体表を覆うことでバリアをはることが出来ます。砂が巻き上げられて降りかかったり、汚水や病原菌が流れてきてもこのバリアで防ぐのです。そしてなんと、サンゴは古くなった粘液のバリアを脱ぐことができる!
またねばねばした性質を利用して、動物プランクトンをくっつかせて、まとめて食べることもできます。この動物プランクトンがくっついた塊は、プランクトンボールとも呼べます。

(出典)http://www.wildsingapore.com/wildfacts/cnidaria/coralhard/coralhard.htm
この粘液がすごいのは、サンゴの体を守ることだけではありません。実はこの粘液こそが、沢山の海の生き物を養うエネルギー源になっているのです。
粘液の材料は、褐虫藻が生み出した栄養素。そして粘液の周りには動物プランクトンもくっついています。動物プランクトンがそれぞれ浮遊しているよりも、粘液にくっついて塊になっていたら効率よくエネルギーを吸収できる。この粘液が、他の生き物の栄養となることは想像に難くないと思います。

(出典)
http://www.env.go.jp/nature/nco/kinki/kushimoto/JP/biodiversity1/biodiversity1_14.html
ワカメなどもぬるっとはしていますが、サンゴのように動物プランクトンをくっつけておく性質はないそう。またソフトコーラルと呼ばれる堅い骨格を持たないものも、動物プランクトンを捉える力がないため、固い骨格を持つサンゴと比べると、生き物にとってあまり寄り付く魅力がないそう。
<スパイラルな循環を生み出すサンゴの粘液>
ある一定の時間が経ち、古くなった粘液をはがすとそのシートは、ふわふわと海中を浮遊したり、沈んで海底に着いたりします。
ここで思い出してほしいこと。
サンゴは、透き通った海=栄養素が少ない海に住んでいる。
このはがれた粘液シートは動物プランクトンや褐虫藻が生み出した栄養素が含まれます。
栄養たっぷりの粘液のシートは、栄養の少ない海で様々な生き物にエネルギーを与える役割があります。海中で漂うシートは魚やプランクトンに、海底にたどり着いたシートは砂の中に住むバクテリアや貝などに吸収されます。その生き物たちが死んだとき、死骸はサンゴの栄養へと、変化します。なんというスパイラル!
褐虫藻により生み出される酸素、栄養、粘液。
その褐虫藻を支えるサンゴ。
粘液により、海の様々な生き物を支えるサンゴは海の中で、生きていくのに必要なものを生み出すポンプのような役割をも担っているのです。
サンゴと褐虫藻による、特殊能力…あなたは知っていましたか?
サンゴから鼻水が出ていても、海を支える栄養だともう知っているあなたは、それさえも愛おしく思えるはず。(そんな人を増やしたい!笑)
“The sea is a place of mystery. One by one, the mysteries of yesterday have been solved. But the solution seems always to bring with is another, perhaps a deeper mystery. I doubt that the last, final mysteries of the sea will ever be solved. In fact, I cherish a very unscientific hope that they will not be.” –Rachel Carson
海は謎が詰まった場所。一つずつ、昨日までの謎は解き明かされる。しかし謎を解明することによって、更に海の謎は深まる。この謎がすべて明らかにされる日は果たして来るのだろうか。…しかしその謎が解き明かされなくてもいいと、非科学的な願いを持つ私がいるのも事実である。-レイチェル・カーソン
海が果たす役割は、私たちの想像をはるかに超えていると、そう思います。
海が好き。サンゴが好き。生き物が好き。
そんな私は謎を解き明かすために、そして解決策を見いだすために何が出来るか?何をしたいか?何をすべきか?
海の不思議を伝え、もっと海に目を向けてもらう。今回の記事はそんな目標に近づけたらという思いから書き始めました。そんな記事を書きながら、いつか人間がなぜ海に惹かれるのか自分なりに謎を解き明かしたい。
レイチェルの言葉は海について目を向けさせてくれる言葉でした。しかし海に限らず、全世界の人間がこの疑問を持ち、それぞれの使命を見いだし、実行すれば世界は変わると信じています。
<参考>
・生物海洋学者 中嶋亮太先生のご講演
・Singapore wildlife http://www.wildsingapore.com/wildfacts/cnidaria/coralhard/coralhard.htm
<もっと粘液について詳しく!という方>
こちらをどうぞ。↓↓
・JCRS サンゴ礁生態系の物質循環におけるサンゴ粘液の役割
―生物地球化学 ・ 生態学の視点から―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrs/16/1/16_3/_pdf

松岡 美範
国内外でウミガメ、サンゴ礁、イルカなどの海洋保全活動に参加。夢は鯨類と泳ぎ、オサガメと出会うこと。今後学びたい事は、クジラのソングやヒートコーラル、海に関する神話と、科学の親和性。知識・感情共に豊かな海洋ジャーナリストを目指す。もっと詳しく


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